『教室に並んだ背表紙』 相沢沙呼
書架に収められている本が、誰かに読まれることを待っているのだとしたら。
あたしも、誰かに読んでもらいたいのだろうか。
三崎さんも、誰かに読んでもらいたいって、考えたことがあるのだろうか。(本文より)
「中学生の女子が主人公で、部活はダメ、恋愛もダメ、ミステリーもダメ、そんな本を読みたい」というリクエストは結構ハードルが高いなぁと思ったけど、ちゃんとそういう本を薦めてくれる人がいたのです。それを薦めてくれた彼女は図書室のカウンターにいました。
この本には、繊細な心を持った女子が何人も登場します。孤独だったり、自分をうまく表現できなかったり、自己評価がとても低かったり、それ自体は何にも悪いことじゃない。なのに、そこにツッコミを入れて、ビクビクする反応を楽しんでいる嫌なクラスメートがいるのです。
キレイで勉強もできて先生の受けもよくて、クラスの女王様として君臨している彼女に嫌われたら、教室の中にいる場所はないんです。昼休みに教室でお弁当を食べることもできないくらい酷い仕打ちを受けているんだけど、誰も助けてくれないんです。助けたら、自分も同じ目に合うのがわかっているから。
こういう陰湿なイジメに遭って、保健室や図書室やトイレで過ごしている子が大勢いるなんて、日本っていつからそんな嫌な国になってしまったのかしら?
あのリクエストを出したのは、クラスでいじめられて居場所がない子。司書の先生に「教室に戻らないで、ずっと図書室にいていいよ」「助けて欲しい時は、助けてって言えばいいんだよ」という言葉に救われたんです。
わたしが高校生だった時、クラスの女子を束ねている女王様がいました。ある男子のことが気に入らなくて、女子全員に「あいつと話をするな!」というおふれが出たことがありました。
わたしはハブられそうになっていた男子と仲良かったし、女王様の言うことが納得できなかったので、女王様に宣言しました。「どうして、わたしがあんたの命令を聞かなければならないの?」同じように考えていたクラスメートも何人もいて、女王様の言うことを無視していたら、何も起きませんでした。今だとそうはいかないのかしら?
この6つの物語が絡み合って、図書室の物語を作り出しています。
・その背に指を伸ばして
・しおりを滲ませて、めくる先
・やさしいわたしの綴りかた
・花布の咲くころ
・煌めきのしずくをかぶせる
・教室に並んだ背表紙
図書室が「教室に居場所がない子のための場所」にもなっているというのは、なんともやるせない気がします。この本に登場する「しおり先生」のような先生がいないところだってあるだろうし、学校って何のための場所なの?って思ってしまいます。
「本の中みたいにいい人なんかいないから」「特別な人だから幸せになれたんでしょ」なんて気持ちを持っている子たちに、どうやって本を薦めていくのかは難しいですね。それにしても、まだ中学生なのに「わたしの人生は終わってる」って感じてしまう子がいるなんて辛いなぁ。自分の評価が低い子って、親から圧力を受けて育ったからという理由が多いらしいのだけど、それに気づかない親が多いということなのでしょう。
その親もクラスの女王様と同じような思考回路なのかしら。自分が良しとすることを他の人に押し付けることを悪いことだと思わない。どちらかといえば、自分は正義の味方みたいに思っている。そういう発想になる人がいても、それを否定できる人がいればいいのだけれど、自分に火の粉がかからないようにって思って、黙っている人が多いのでは、このままじゃ日本はダメになるしかないなぁと思うのです。
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