『死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由』 西川幹之佑
4代続けて東大卒という超名門の家柄に生まれたのに、ADHDにASD傾向、学習障がいという3重苦で、幼稚園すら二時間で中退させられた著者。小学2年生までは特別支援学級に通うも「赤ちゃん扱い」になじめず、強く希望して通常学級に転籍。しかし、周囲とトラブルを起こし、テストで点がとれないとパニックになっては教室を飛び出す毎日を送り、やがて「死にたい」という衝動にとらわれるようになる。そんな著者が変わったきっかっけは、千代田区立麴町中学校に入学し、大胆な学校改革を実践していた校長の工藤勇一氏に出会ったことだった。
~中略~
ヘレン・ケラーを目覚めさせた「Water」という言葉は、著者にとっては「自律」という言葉だった。
工藤氏の教育目標は「自律した生徒を社会に送り出す」ことだ。「自律」「尊重」「創造」を掲げ、社会を生きる当事者意識をもつ生徒を育てるという工藤氏のもとで様々な学びを経験するうちに、著者は親や名門家系に対する劣等感、周囲に対する憎しみから解放され、「自律」して生きる大人になるために、「自己変革」に挑むようになる。(書籍紹介より)
この本を読んでいて強く感じたのは、幹之佑さんのような障害を持った人を相手にしている人たちの理解のなさです。幼稚園では初日の2時間で「もう、こないでください」と言われてしまったり、小学校では無理だと判断されて特別支援学校に入ったのだけれど、そこでも理解されません。彼は先生たちが言ったことを「わからないのではなく、できないだけ」だということを理解してくれないのです。無駄な子ども扱いをされてイライラする彼の気持ちなどわかってくれないのです。
その状況を説明できない自分に幹之佑さんはいら立っているのです。優秀な家族に囲まれているからこそ生まれた「自分は不良品だ」という思いをどこにぶつけていいのかわからずにいたのです。そして死にたいとまで思っていたのです。
そんな彼を救ってくれたのは千代田区立麴町中学校の校長の工藤勇一先生でした。他人にわかってもらえない子の悩みを聞き、その悩みに共感してくれる先生のおかげで、少しずつ自分自身のことを知るようになったのです。
本当は、その子が得意なことを伸ばせばいいのに、なぜか日本の教育は、子どもの不得意なことをできるようにしようということばかりです。不得意なことは努力で補えばいいという間違った考え方が子供を追い込んでいるということに気がついていないのです。
生まれつきみんな違うんです。教わらなくてもできてしまう子もいれば、どんなにがんばったってできない子がいる。それが自然なんです。それを無理強いしてしまい、子どものイライラを産んでいるだけなのです。そして「なぜそれをやらなければならないのか?」という問いに、決まりだからとか、それが普通だからといってしまう大人の勝手さが、その子のその後の人生に重いトラウマを産んでしまうのだということを理解していない教育者や親がほとんどだということに驚いてしまいました。
世間的には優秀だと評価されている幹之佑さんの叔父さんが、幹之佑さんと似たような症状(忘れ物が多い、あきっぽいなど)を持っていて、もしや自分もと思って検査を受けた結果、同じ傾向があることがわかり「幹之佑のおかげで、自分をよく理解できるようになった。ありがとう。」と言われたというエピソードは、とてもうれしいことだなと思いました。
自分の中にある理由がわからない問題の原因がADHDやASDであるということを知ることで、どんなにか救われる人が多いのではないでしょうか。いまでも、落ち着きのない子も大人になれば治るなんて思っている人が大多数だけど、それは間違った考え方だったのだと知るだけでも、人を見る目というのは変わると思います。
彼自身が見つけた「UDデジタル教科書体」フォントのことや、真っ白な紙だと文字が読みずらい人は「ブルーライトカットグラス」がいいとか、ちょっとした工夫で生活が楽になるアイデアがいろいろと挙げられていて、「そうか、そうだったんだ」と初めて気づくことがたくさんありました。
症状を緩和してくれる薬をキチンと服用すること、自分の陥りやすいパターンを探ること、栄養バランスを考えることなど、自分に関する様々なことを考え、実行していくことで幹之佑さんの日常はビックリするほど過ごしやすくなったのです。
「普通じゃない」と言われてしまう子どもたちが、そんな症状を持っているのは自分だけじゃないこと、対処方法があることを知って欲しいと考えて、幹之佑さんはこの本を書いたのだそうです。
ホントに素晴らしい本です。
この本を読んで、もっともっと多くの人に知ってもらいたいなと思いました。
#死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由 #NetGalleyJP
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