『戦争は女の顔をしていない 3』 小梅けいと
3巻目は、こんなシーンから始まりました。
戦場へ行く夫は幼い子どもを抱きしめて泣いていた。男たちが集められて整列させられているところへ行っても子どもを離さずに泣いていて軍人に怒鳴られていた。妻は子どもを抱きしめて、夫が乗せられたトラックを追って走った。夫は泣いていた。妻も泣いていた。夫は戦場から帰ってこなかった。
わたしの母の仲の良い友人で、第二次世界大戦で夫を戦争に取られた人がいました。兵隊になる男たちを万歳と叫びながら戦場へ送り出すときに、彼女は死ぬほど泣いたそうです。同じように泣いていた人もいたそうです。泣いていなかった人もいたそうです。「戦争が終わってから思い出してみると、あの時に泣いていた人の夫はみんな死んだのに、泣いていなかった人の夫は帰ってきたの。きっと、虫の知らせみたいなのがあったんだろうね。」って話してくれたことを思い出しました。
日本の別れの場では泣いていたのは女性だけということになっているけれど、この本に描かれたように、泣いていた男性だっていたはずです。でも、泣いているのがみつかったら殴られるから、ぐっと我慢していたのでしょう。そして、誰も見ていないところで泣いていたのでしょう。
「戦争は女の顔をしていない」に登場する女性たちが口を揃えて言うのが、戦場で恐ろしい目に遭いながら生き延びてきたのに、平和になって故郷へ帰ったり、結婚したりした後に「あの女は戦争帰りだ」と非難を浴びるのが辛かったということです。男性の兵士にそんなことを言う人は一人もいないのに、なぜそんなことが起きてしまうのか?
人間の残酷さとは、どこに潜んでいるのかわからないものなのですね。
原作者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチが、多くの女性へインタビューを試みているときに、こういうことがあるために話をしてもらえなかったことがよくあったそうです。でも、勇気ある女たちはスヴェトラーナに真実を語ってくれました。
でもこれは残るようにしなけりゃいけないよ
いけない
伝えなければ
世界のどこかにあたしたちの悲鳴が残されなければ
あたしたちの泣き叫ぶ声が(本文より)
2482冊目(今年181冊目)
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