『父と私の桜尾通り商店街』 今村夏子
こんな平和なタイトルだから、ほのぼのした話かと思ったら、やっぱり今村さんの描く世界は摩訶不思議な感じです。ごく普通な社会生活をしている人のように見えていても、頭の中はいつも不安でいっぱい、常にオドオドし続けている人が毎回登場します。
恋人に買ってもらった白いセーターを着てお好み焼き屋さんへ行ったら臭いが付くんじゃないかと心配でならない女性。産院で隣のベッドにいる親子が気になってしょうがない若い母親。商店街にある、ちっとも売れないパン屋の娘。
それぞれの思いは誰かに伝えられるわけでもなく、本人の頭の中でグルグル回り続けるのです。挙動不審な彼女たちは、それをどうすることもできないまま毎日を過ごし、何もしないうちに解決してしまった事実に疑問も持ちません。そして、次の心配事へ気持ちが移るだけなのです。
このままの生活が嫌だと思いながらも、何もしない、長いものに巻かれっぱなしな人たちの行く末は、どうなっていくのかしら。
この気持ち悪さは、今の日本の縮図のような気がしてしょうがないのです。
この7篇が収められています。
- 白いセーター
- ルルちゃん
- ひょうたんの精
- せとのママの誕生日
- 冬の夜
- モグラハウスの扉
- 父と私の桜尾通り商店街
2488冊目(今年187冊目)
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