『団地のふたり』 藤野千夜 220
なっちゃんとノエチは、今住んでいる団地で生まれ育った幼馴染みです。売れないイラストレーターのなっちゃんは、現在の収入のほとんどがフリマアプリの売上です。ノエチは非常勤講師をしてるけど、仕事場の人間関係に疲れているらしくて、なっちゃんのところに遊びに来ては愚痴っています。
若いころはそれなりにいろいろあったけど、50歳を過ぎて実家暮らしをするようになってからは、気心が知れた2人で一緒にご飯を食べたり、出かけたりということが増えてきて、特にコロナ禍になってからは、近くに仲のいい友達がいてヨカッタ~と思うことが増えています。
古い団地だから、そのうちに壊されるんじゃないかと、団地のおばちゃんたちは心配してますけど、とりあえず今は平和な日々を送っています。自分の親世代のおばちゃんたちから買い物を頼まれたり、網戸の修理を頼まれたり、不用品をフリマで処分して欲しいと頼まれることも結構あるんです。
「だって、年寄りばっかりよ、ここ。女はまだあれだけど、男手って言ったら、おじいさんばっかりなんだから、とくに昼間は。なにかって言うと、すぐ威張るし、怒るし、骨折するし、今日みたいなことだって、簡単に頼めやしない」
佐久間のおばさんは日常の不満をぶつけると、
「ねえ、ピザ取らない?おなかすいたでしょ」と唐突に言った。
「食べたくても、ひとりだとなかなか取れないから、ね、付き合って。ごちそうする」(本文より)
そうよねぇ、誰かとたわいもない話をしながらピザを食べるなんて、おばちゃんは何年もしてなかったのかもしれない。おまけに若い子(といっても50代だけど)と一緒になんていいよねぇ。こういう欲求というのは、なかなか他人に言えないものよね。
ご飯を作るのが大変だろうからお弁当を宅配しますというサービスはあっても、ひとりで食べるんじゃ寂しいものね。一緒にご飯を食べてくれるとか、一緒にお茶をしてくれるとか、そういうことの方がずっと大事よね。
高齢化が進む日本では、一人暮らしの人が増えるし、同居家族がいたとしても会話が成立しない相手だったりすることが多いので、家とは別に心休まる場所があるって大切なこと。人間はひとりでは生きて行けないんだもの。
こんな風に彼女たちの心の中を、さらっと描いてしまう千夜さんはすごいなぁ。
2521冊目(今年220冊目)
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