『過剰な二人』 林真理子、見城徹 251
人は美人だと思っても、本人は自分のルックスが大嫌いかもしれない。他のことでも必ず劣等感があるはずだ。自分を見つめることができなければ、あのような力のある作品は書けない。
では、編集者である僕は、どうか。僕は自分に強いコンプレックスを持っているため、作家と話していると、その人のコンプレックスをすぐに嗅ぎ当てられる。僕はコンプレックスのデパートなのだ。これは一種の特技と言っていい。僕は作家に、そこを掘り下げて書くように進言する。コンプレックスのある所にこそ、文学的な黄金の鉱脈があるからだ。
編集という仕事は、僕の天職だと思っている。それは少年時代から抱えた、強いコンプレックスと戦い続けたおかげなのだ。(見城 p43)
見城さんは、とにかく熱い編集者です。この人には才能があると感じたら、徹底的に作家を教育していきます。厳しい言葉を与え、本人も気づいていなかった才能を開花させる名人なのです。林さんもその一人でした。世間ではただの流行りものとしか評価されていなかった彼女に「君は直木賞を取る作家になれる」と豪語し、それは現実化しました。林さん自身も、見城さんのおかげで今日の自分があるのだと言っています。
限りない信頼関係を持っていた二人なのだけれど、時諍いを起こし16年もの間別々の道を歩んできました。でも、お互いのことをリスペクトしあっているという気持ちに変わりはありませんでした。そして再会し、この本が生まれたのです。
僕は春樹さんと社長車に乗って、日比谷の映画館に向かっていた。今日、いよいよ『犬神家の一族』が封切られる。客は入っているだろうか?もし失敗すれば、角川書店に未来はない。車の窓ガラスに滴る雨粒を見ながら、僕は心の中で祈っていた。(見城 p122)
あの映画は封切りした次の週に「日比谷映画館」へ見に行きました。平日の午後で雨が降っていたにもかかわらず満員+立ち見という状態でした。通常は外国映画の封切館だったので、ここで日本映画が上映されるということにビックリしていました。満席だったので、階段状になった通路に座って観ました。おどろおどろしい内容なのに、なぜか美しい印象が残る映画だったことを覚えています。「犬神家の一族」は大ヒットし、角川映画は一躍有名になったのです。
私自身、型やスタイルの大切さに気付いたのは、大人になってからです。日本舞踊を始めたり、着物を着る用になったりして、ようやくわかりました。姿勢が良く成ったり、動作ががさつでなくなったり、見た目がよくなることは、大変な自信を生みます。
服装でも立ち居振る舞いでも、スタイルがあると、周囲に不快感を与えません。これはとても大事なことだと思います。(林 p130)
林さんは様々なことを学び、現在の地位を築きました。そして今年、日大の学長に就任しました。彼女が母校をどう変革していくのか?とても楽しみにしています。逆風が吹きすさぶことも想像されますが、見城さんに鍛えられた彼女なら、きっとできると信じます。
五木さんが提案したのは、「幻冬舎」「幻城社」「幻洋社」の3つだった。
メモには、「この3つから好きなものを選んでください。僕は『幻冬舎』がいいt版いいと思う」と添えられていた。天下の五木さんがそう言うのだから、流れに身を任せよう。そう思い、僕は迷わず「幻冬舎」を選択した。(見城 p225)
「幻冬舎」という不思議な社名を名付けたのは五木寛之さんだったのです。それだけ見城さんに期待をかけて下さったという証なのだと思います。良くも悪くも個性的な見城さんを心から応援してくれる人がここにもいたのです。
様々な仕事を成し遂げてきた二人。きっとこれからも更に大きな仕事をしていくだろう二人、次は何をしてくれるのかがとても楽しみです。
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