『いえ』 小野寺史宜 259
社会人三年めの三上傑には、大学生の妹、若緒がいた。仲は特に良くも悪くもなく、普通。しかし最近、傑は妹のことばかり気にかけている。
傑の友だちであり若緒の恋人でもある城山大河が、ドライブデート中に事故を起こしたのだ。後遺症で、若緒は左足を引きずるようになってしまった。以来、家族ぐるみの付き合いだった大河を巡って、三上家はどこかギクシャクしている。(書籍紹介 より)
傑(すぐる)は、妹のことを真剣に考えれば考えるほど、彼女のケガの原因を作った大河に腹が立ってしょうがないんです。それに、大河は自分の同級生だったから、彼らが付き合うようになった原因を作ったのは自分であると考えてしまって、モヤモヤする気持ちを抱えています。仕事も嫌いではないけれど、パートさんたちとの付き合い方が上手くないせいか、こちらもギクシャクしていて悩んでいます。
三上家、郡家、筧家、筧ハイツ、という並び。道路を挟んですぐ前が堤防。そこを上がればその先は河川敷。そして荒川。なのに、江戸川区。
最寄りの平井駅までは歩いて15分。(本文より)
傑は平井で生まれて、25歳の今までずっとここで暮らしています。高校も自転車で15分ほどのところだったし、職場は両国。学生時代の友だちもまだ大勢近所に住んでいます。この土地が大好きで、ずっとここで暮らしていくんだろうなって思っているみたいです。
筧ハイツに住む人が主人公の話が小野寺さんの小説にはいくつかあるんですけど、それにしても色々出てきて楽しいです。
高校時代によく行っていた砂町銀座の田野倉さん(ひと)のコロッケのこととか、引越し屋さんのバイトをしている江藤俊一さん(まち)、そして井川幹太さん(ライフ)の近況が聞けて嬉しいです。
筧ハイツのA棟、ワンルームに住む井川幹太さん。
「今は何してるの?その井川さん」
「駅の向こう側の製パン会社に勤めてます」
「製パン会社、あるんだ?」
「はい。そこには店もあって、パンを売ってますよ。おいしいらしいです。井川さんに聞くまでは僕も知りませんでした。駅の向こうのことは、意外と知らないんですよね。」
妹と本の話をしていて横尾成吾(食っちゃ寝て書いて)の「三年兄弟」と言う本を読んでいるという話をしていたり、家の近くの図書館で読んでいた本が「ホケツ!」というのには、思わず笑ってしまいました。妹と一緒に行った喫茶店「羽鳥」へは、俊一さんや幹太さんも行ってたんじゃないかなぁ。
いろんな人と話をしながら、傑は考えます。頭ではわかっていても実行できないのは何故なんだろう?同じものを見ても、人によって感じ方が違うのは何故なんだろう?自分には何ができるんだろう?ってね。
考えるのに煮詰まったら土手へ行って空を見上げます。すると気持ちがすっとするような気がします。
10月になったらコスモスを見に平井運動公園へ行ってみよう!って気持ちになるラストでした。
2560冊目(今年259冊目)
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