『茗荷谷の猫』 木内昇 261
江戸時代末期から東京オリンピック直前(昭和30年代)までの、普通の人達の暮らしが描かれています。桜の品種改良を生涯の仕事とした男が「染井吉野」を世間に広めていったり、仲之町の大入道と呼ばれたのは内田百閒さんだったり、映画監督になりたかった庄助さんは兵隊にとられ、スペインタイルの家のそばでは国立競技場が建築中でした。
それぞれが独立した話なのだけれど、前の話に登場した人がそおっと出てくるところが面白いなぁ。みんな淡々と生きているだけなのに、社会は勝手に幕府から政府になり、いつの間にか戦争が始まり、戦争が終わったかと思えば食糧難。そして少しずつ復興していき、町の姿はどんどん変わっていきます。
物語の中で登場した、千駄ヶ谷の鳩森八幡神社の富士塚には一度行ったことがあります。大して高さがあるわけではないけれど、山の上は気分がいいものだって感じたことを思い出しました。
人はなかなか自分が思ったようには生きていけないものだけど、でも一生懸命にあがいたり、もういいやって諦めてしまったり、それぞれの生き方をしていくのですね。他人から見たら、それが自由そうに見えていたり、窮屈そうに思えたりするのだけど、他人の声などどうでもいい、わたしはわたしの好きに生きて行くんだって言えたもの勝ちなんだなって気がしました。
この9編が収められています。
- 染井の桜 巣鴨染井
- 黒焼道話 品川
- 茗荷谷の猫 茗荷谷町
- 仲之町の大入道 市谷仲之町
- 隠れる 本郷菊坂
- 庄助さん 浅草
- ぽけっとの、深く 池袋
- てのひら 池之端
- スペインタイルの家 千駄ヶ谷
2562冊目(今年261冊目)
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