『Another REAL 車椅子バスケ日本代表はいかにして強くなったのか?』 チームリアル 286
イリノイ大学はアメリカの中でも早くから傷痍軍人の高等教育の場として開かれ、バリアフリーのキャンパスが整備されていた。障碍者のスポーツプログラムを積極的に推進して、アメリカだけでなく世界中から集まった障害のある学生は、1500人以上と言われていた。
夏休みには車椅子バスケや陸上競技のジュニアキャンプが行われて、そのお手伝いをする機会がありました。子どもたちが全米各地からやってきて、みんなで大学の宿泊施設に泊まり込んで参加します。p61
(アメリカでの)キャンプはとにかく面白くて、ゲームをやるような感覚で、子どもみたいに夢中になっちゃう。たのしくてしょうがないからずっとやってる、ずっと考えちゃう。そんな感覚の中でバスケットボールができるんです。バスケってチームスポーツだから、ひとりで満足していてもしょうがないじゃないですか。この楽しさを日本の仲間たちと味わいたいなと思いました。(監督 及川晋平)p81
「傷痍軍人のための高等教育」という発想は、いかにもアメリカですね。一般の人でも、軍隊で何年か働くと奨学金で大学へ行くことができる制度があったり。何らかの理由で大学へ通えなくなっても、復学しやすいようになっていたり。日本でも、こういう発想の教育が欲しいです。
そして、楽しく学ぶということを真剣に考えているというところもいいですね。サマーキャンプというスタイルで、様々な学びができる大学のスタンスが羨ましいです。そういう場所に社会人が参加ためには、長期休暇が取りやすい社会であることも必要ですけど、日本はこういう面でも後進国だなと強く感じます。
ローポインターの選手の身体を伸ばして姿勢を良くしたいと考えてぶら下がらせたんです。すると選手たちが口々に腹筋がきついとって言い出して、なるほどと思いました。精髄損傷のローポインターは腹筋が利かないんですけど、ぶら下がると下がっていく腹筋に対応しようという反応が起きて、ブルブル震えて腹筋が使われるんです。ローポインターの体幹強化に効果的なトレーニングになりました。そうやって腹筋に刺激を入れていたのは、日本では車椅子バスケだけだと思います。(フィジカルコーチ 有馬正人)
フィジカルコーチはどんな種目にもいますが、障害のある人の身体のことを考えるという仕事をしている人は、まだまだ少数なのでしょうね。ひとりひとり違う体の状態に合わせてのトレーニングを考えるのは、とても大変だけれど、とてお大事な仕事です。こういう方が増えることによって、スポーツ選手以外の人のリハビリなどにも応用できることが見つかっていくのかもしれません。
強化指定選手25名のうち、褥瘡の危険があるローポインターは14名。まずはひとりずつ聞き取りをしたんですが、みんな褥瘡に対する知識が不足していました。(褥瘡治療 真田弘美)
褥瘡(じょくそう)とは、一般的には床ずれのことですが、車椅子ユーザーの場合は、座面に接しているお尻の部分に褥瘡ができてしまうのです。下半身の感覚がない人の場合、自分の褥瘡に気がつかないことが多いのだそうです。悪化してしまうと、褥瘡の治療だけでも1年以上かかってしまうこともあるそうです。でも、予防は可能です。まずは正しい知識を得ることから、これもまた大事なことです。
岐阜の(松永製作所の)本社まで来てもらって前進を測定しました。そのデータをもとに、東京パラの豊島英モデルの原型でもある後ろ傾斜をつけたんです。図面で見ると10センチ以上の傾斜です。英は腹筋と背筋が聞かないので前にぺたーんと倒れてしまうと戻れない。そうならないように体育図割りみたいに膝を上げて、身体を足で止める。
鳥海連志の「もっとイメージ通りに動きたい」という思いが爆発して要求が止まらなくなったんですね。だんだん僕の理解がついて行かなくなりました。クッションを高くして、タイヤを大きくして、さらに車椅子のフレームも大きくした。ここまではわかるんですが、シートを前傾させてくれと。(メカニック 上野正雄)
車椅子は選手の障害の度合いや体格によって、まったく違うセッティングが必要です。練習や試合で破損する部分のメンテナンスも必要です。本人の希望もあるし、コーチからの要求もあるし、細かい調整が必要です。そして、選手とメカニックの信頼感、これが一番大事なことです。
車椅子から落ちないように座面が後傾しているというのは、何となくわかる気がしたのですが、鳥海選手の車椅子の座面が前傾しているというのは、確かに想像外の設定ですね。鳥海選手の写真を見ると確かにそうなっていて、これがあの驚異的な動きの秘密の一端なのだと知りビックリしたのです。
メンタル面のコーチは田中ウルヴェ京さん(心の整えかた トップアスリートならこうする)です。練習を重ねても上手くならない自分にイラついたり、試合本番で実力を出せなかったりするのは、心の問題であることが多いのです。どんな質問にもきちんと耳を傾けてくれるメンタルコーチの存在はとても大事です。根性論だけではどうにもならないんです。いつでも、何でも聞いてもらえるということで、心の健康を取り戻すことができるのです。
バスケの技術も、食生活も、医療も、心のケアも、すべてが大事なのです。ですから、そのすべてにプロの力が必要なのです。選手たちの周りの人たちもチームなのです。
車椅子バスケットボールを描いた「リアル」の作者、井上雄彦氏と及川晋平氏の対談を読みたくてこの本を手に取ったのですが、それ以上に、いろんな人たちの証言が実に面白い本でした。
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