『選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義』 シーナ・アイエンガー 306
この本を読むきっかけになったのは、養老孟司先生の「<自分>を知りたい君たちへ 読書の壁 」でした。
わたしたちはいつでも選択を迫られます。
朝起きるか?起きないか?から選択する人もいるだろうし、今日はどんな服を着るのか?で毎朝悩む人もいるだろうし、何を食べようか?付き合う人はどんな人がいいのか?転職した方がいいのか?親の言うとおりにした方がいいのか?そうではないのか?
あなたは毎日どれだけ選択しているのか、紙に書いてくださいとアメリカ人と日本人に質問すると、アメリカ人の方が、目覚ましのアラームを留める、歯を磨く、というように細かく書き出してくるというのです。それに対して日本人は「朝起きたら、顔を洗って、歯を磨いて、着替えて、食事」というようなことは1つのルーチンワークとして考えている人が多いというのです。ひとつひとつの事項に関する認識がどうも違うようなのです。つまり、あらゆることを自分で選択しているとう自覚が、アメリカ人の方が強いようなのです。
アイエンガー教授は「ジャムの実験」で有名な方です。24種類のジャムを揃えた売り場と、6種類のジャムを揃えた売り場で、売上額を比べると、なぜか6種類の選択肢の方が売上が増えるというのです。売る側は、より多くの選択肢がある方が消費者に訴える力が強いのではないかと考えがちですが、実際には選択肢が多過ぎるとその違いを考えるのが面倒くさいと感じたり、違いがよく分からなかったりしてしまうのです。ですから、6種類程度の方が違いが分かりやすいので、購入に結びつきやすいというのです。
選択するということは、自分で判断するということです。A定食とB定食のようなわかりやすい選択なら、そんなに悩むことはありませんけど、未知の味、未知の商品を選ぶというのは勇気もいることになります。だからこそ、試食販売は有効なのだし、洋服だって試着させて「お似合いですよ」と褒めることが大事なのです。実際に手に取れないものの場合には、有名人をCMにつかったりして、心理的に選択しやすくする努力を企業はしているんです。
でも、そういう力に頼ることなく選択しなければならないことが、とにかく大量にあります。ですから、面倒なことを自動化できないかと考える人もいます。スティーブ・ジョブズのように、着るものは1種類と決めてしまったら、そりゃ楽ですよね。服に悩む時間よりも、新しいアイデアのことを考える時間が大事だという選択を彼はしたのです。
アイエンガー教授の両親はインドからの移民で、シーク教徒です。遺伝性の網膜色素変性症があって、高校生の時に全盲になったけれど、大学で社会心理学の博士号を取得し、現在はコロンビア大学ビジネススクール教授です。
さぞかし難しい選択をたくさんしてきたからこそ彼女は「選択する」ということに興味を持ったのかもしれません。
結婚は親が決めるのが当たり前のインド人家庭なのに、大学で知り合った男性と結婚しようとして親に反対されました。その時、占い師に「この人とは前世から夫婦であり、生まれ変わっても夫婦になる」と言ってもらい、親に納得してもらったそうです。「神の選択である」
というのは実に上手い対処法ですよね。
選択することは、自分の生きる道を考えることです。だから、やみくもに面倒くさいといってはいけないと思います。でも、自分で選択できないときにはどうすればいいのか?それを普段から考えておく必要があるのだと、考えさせられる本でした。
2607冊目(今年306冊目)
« 『あずかりやさん まぼろしチャーハン』 大山淳子 305 | トップページ | 『病院図書館の青と空』 令丈ヒロ子 307 »
「海外 その他」カテゴリの記事
- 『ぼくが子どもだったころ』 エーリヒ・ケストナー 268(2023.09.26)
- 『熟睡者』 クリスティアン・ベネディクト ミンナ・トゥーンベリエル 265(2023.09.22)
- 『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』 シャルル・ペパン 270(2023.09.28)
- 『死者宅の清掃』 キム・ワン 蓮池薫 訳 215(2023.08.03)
« 『あずかりやさん まぼろしチャーハン』 大山淳子 305 | トップページ | 『病院図書館の青と空』 令丈ヒロ子 307 »
コメント