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『きみのためのバラ』 池澤夏樹 320

きみのためのバラ

池澤夏樹(いけざわ なつき)

新潮文庫

一万円選書 の中の一冊

 世界中に様々な人が暮らしている。そこへ旅で訪れる人がいる。知らない人ばかりの中で孤独を感じたり、思いがけない出会いがあったり、見たこともない景色に驚いたり、食べたことのないものを食べたり、怖い目に遭ったり、見知らぬ人に親切にしてもらったり、とにかく普段とは違うことが、これでもかというくらいに押し寄せてくる。

 

 時差の計算を間違えて、予約していた飛行機に乗れなかったこと、乗るはずの便が吹雪で欠航になったこと、空港へ着いたとたんに「あなたが乗る便はもうすぐ出発だけど、走れば間に合うかも?」と言われて猛ダッシュしたこと、旅にアクシデントはつきものだけど、そうことこそが大事な思い出なのです。

 ヒッチハイクでトラックの荷台に乗せてもらったことも、イタリアのレストランでトイレのカギが開かなくて、このまま帰れなくなったらどうしようと思ったことも、リバプールで近道をしようと、工事現場のフェンスをよじ登ったことも、どれもいい思い出だなぁ。

 彼の地でしか食べられないものや、人の人情や、二度と見られない景色など、いろんなことを思い出しました。

 

都市生活
飛行機の時間を間違えてしまって、帰りの便に乗れなくなった彼は仕方なく一晩泊まることになった。

レギャンの花嫁
茜さんはバリで結婚式を挙げるはずだったのですが

連夜
大学を卒業した後、彼は首里の病院で働いていた。

レシタションのはじまり
セバスチャーノは妻を殺してしまい、逃亡が始まった。

ヘルシンキ
ヘルシンキの町で男は日本語を話していた。わたしは彼に声を掛けた。

人生の広場
トマスはベルリンで新聞社にいたのだが、仲間と意見が合わなくなり退社した。そしてパリへ行こうと思い立った。

20マイル四方で唯一のコーヒー豆
カナダで写真を撮っている叔父さんに連れられて、ぼくは旅をしていた。海辺の小さな食堂を経営しているアリスに、今まで誰にも話したことがない話をした。

きみのためのバラ
アメリカを旅していた彼は、ふと思い立って国境を越え、メキシコへとやってきた。

 

 「20マイル四方で唯一のコーヒー豆」の、英語でしか会話ができなくなってしまった彼の気持ち、それを思うととてもつらくなってしまいました。そういう形でしか父を否定することができなかった彼だけど、アリスに話ができたことで、それがやっとわかったという所に救いがありました。この作品がとても好きです。

2621冊目(今年320冊目)

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