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『死刑に至る病』 櫛木理宇 319

死刑に至る病

櫛木理宇(くしき りう)

早川文庫

「チェインドッグ」より改題

 ただ大学へ通うだけの、楽しくもなんともない毎日を過ごしている筧井雅也の元に一通の手紙が届きました。それは子どもの頃によく行ったパン屋の榛村大和(はいむらやまと)からのものでした。あのころは、あんなに優しい人だったのに、今は連続殺人で死刑囚となっているのです。その彼が、立件された9件の殺人事件の内8件は確かに自分がやったのだが、最後の1件だけは自分が犯人ではないので、調べて欲しいというのです。

 榛村に面会に行き、依頼された内容を調べていくうちに、彼の悲惨な子供時代のことを知るようになります。こんなに酷い子供時代を過ごしてきたと同情する気持ちが生まれるのと、どうしてこんなに酷い犯罪を起こしてしまったのかという気持ちの狭間で、雅也の心は揺れ動きます。

 この本を読み進むうちに、わたしも雅也と同じように、榛村という人の悲劇の部分に心惹かれてしまいました。悪い人だけど、同時に可哀そうな人でもあるという気持ちになってしまったのです。

 

 シリアルキラーと呼ばれるタイプの犯罪者は、不思議なこだわりを持っています。狙う相手の年齢や体格に固執したり、道具にこだわったり。そして、相手の心理を掴むのが異常に上手かったり、自分がやっていることは正しいのだという強烈な信念を持っていたりするのです。

 雅也の二面性が表れてくるあたりから、なんだかおかしいなという雰囲気が出てきます。あんなに自信がなかった彼が急に自信たっぷりな態度に変わったのは、榛村の影響なの?それとも?

 榛村は間違いなくシリアルキラーで、しかも冷静なのです。レクター博士のように脱獄しようなんてことは考えませんけど、刑務所の外にいる人を利用して、できる限りの犯罪を続けようとしていると予感させるラストにはゾッとしてしまいました。

2620冊目(今年319冊目)

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