『奇跡の脳』 ジル・ボルト・テイラー 350
脳科学者である著者が脳卒中で倒れたのです。彼女は、その時のことを必死に忘れないようにしていました。脳卒中になった時に、どんな症状が襲ってくるのか、それをどう感じたのか、どんなことをしようするのか、などなど、これまで知り得なかった、当事者だからこその脳卒中に襲われた人の記録なのです。
脳の中で出血が起き、それが脳のある部分の動きを止めてしまうのが脳卒中です。出血が発生した場所や、出血の量によって症状は様々です。ジルが体感した症状は、考えがまとまらなくて、立ち上がったらフラフラして、でもしばらくの間は大したことないと思っていたのです。でも、右腕がブラブラしていることに気づいた時に、やっとわかったのです。「わたしは、のうそっちゅうになった!」
誰かに助けを求めなければならないことは分かるのだけど、そのためにはどうすればいいのかがわかりません。職場に電話をしようと思い付くまでにかなりの時間がかかってしまいました。
電話をかけることができたので、彼女は病院に運んでもらうことができたのですが、もしそれができず、ひとりきりの部屋の中で倒れていたら、そのまま死んでしまったかもしれません。
手術を受けて、リハビリ生活が始まるのですが、その時期のことでとても興味深いのが、お見舞いに来てくれる人たちのことです。優しい気持ちで良いパワーをくれる人ならいいけれど、不必要な心配をしたりして悪いパワーを与えてくる人や、彼女が病気で具合が悪いということを理解せずに、バカになってしまったという態度を示す人はイヤだと思うという点です。
言葉はわからなくても、相手の態度から伝わってくるものには敏感に反応できるのです。
脳に障害があるわけですから、多くの情報を処理することができません。ですから人混みは苦手なのです。必要以上に大きな声で話しかける人や、バカにした態度をとる人はイヤだし、まぶしい光が気になります。家の中にいても、それまでの体験や知識を失くしているので、様々な初めての体験に疲れて、長時間の睡眠が必要になります。
こういうことは、介護する人達にとって重要な情報です。障害が起きる前とは別の人間なのだという理解が必要なのです。そういう意味では、ジルは幸運でした。彼女の母親は実に優秀な介護者だったのです。
ジルは主に左脳に問題が発生しました。でも彼女は、過去に持っていたものすべてを取り戻そうとは思いませんでした。自己中心的な性格、度を過ぎた理屈っぽさ、なんでも正しくないと我慢できない性格など、左脳が司るものはもういらないと思ったのです。それよりも、これまでないがしろにしてきた右脳がもたらしてくれる幸福感の方が大事だと考えるようになったのです。
「<自分>を知りたい君たちへ 読書の壁 養老孟司」で紹介されていたこの本、実に素晴らしい本でした。
脳科学に関する本である以上に、人としての幸福とは何かを伝える本です。凄いものを読んでしまった!
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