『君のいた日々』 藤野千夜 361
連れ合いが亡くなって、残された方はどんな風に生きて行くのでしょう?自分の身近な人を見ている限り、女性が残った場合は意外と立ち直りが早くて、男性が残った方がガックリ度が高いという感じなんですけど、この物語の夫婦の場合はかなり違う感じがします。
18年と11か月連れ添った妻、久里子さんが亡くなって、残されてしまった春生さんはひたすらにメソメソしています。お化けでも霊でも、何でもいいから久里子さんが帰ってこないかなぁと思っています。仏壇を置いている部屋の蛍光灯がチカチカするたびに、これは久里子さんがチカチカさせているんだと思っているくらいなんです。
次の章になると話は逆転していて、春生さんが亡くなって、久里子さんが残され、亡くなった日の朝に口喧嘩してしまったことを悔やんでいます。そう、この物語はパラレルワールドの話が同時進行していくのです。
亡くなってしまった連れ合いのことばかり話してしまうのは、それだけ大事な人だったということなんですよね。たくさん思い出があって、二人でこれからやりたいと思っていたことがあって、でも、それを話せば話すほど後悔もしてしまのです。ずっとこのまま暮らしていけると思っていたのに、わずか50歳で連れ合いに先立たれたことを心から悲しんでいます。だから、その落ち込み方を見ている周りの人たちは、いろいろと気にしてくれています。
普段は冷たいことばかり言う息子だって、きっと本当は悲しいんですよ。だから蛍光灯を取り換えた後に、あの言葉が出たのでしょうね。
良い夫婦の物語だなぁ。ちょっと涙目になりながら読み終えました。
2662冊目(今年361冊目)
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