『貸本屋おせん』 高瀬乃一 27
浅草福井町の千太郎長屋に住む「おせん」は、梅鉢屋(うめばちや)という貸本屋を営んでいます。といっても店があるわけではなくて、本を風呂敷で担いでお得意さんの所を廻るという、かなり体力のいる商売で、江戸中でこんな仕事をしている女はおせんしかいません。
盗品も扱うという噂もある同業者の隈八十のことを、最初の頃はかなり嫌がっていたのに、話が進むにつれて、こんな奴だからこそできることもあると割り切って付き合うようになったり、お得意さんの好みの本を探し回ったり、おせんが少しずつ成長していくところがいいですねぇ。
幼馴染で青菜売りの登がおせんに「嫁に来ないか」と声を掛けてくるけれど、適当にあしらっているところがいかにも江戸っ子っぽいんです。
江戸時代の古本屋は、取り扱う本の中にご禁制の艶っぽいものも含まれるので、そこいらの扱いが難しかったというのを初めて知りました。犯罪がらみの話の中で、かなり危ない目にも合ってしまうけれど、そんなことを気にしていたらこんな商売なんかできないよと言うおせんは、なかなかカッコいい女性です。続編もあるといいなぁ。
この5篇が収められています。
第一話 をりをりよみ耽り(ふけり)
第二話 板木どろぼう
第三話 幽霊さわぎ
第四話 松の糸
第五話 火付け
浅草福井町は現在の台東区浅草橋1丁目あたりです。浅草橋駅のすぐ近くで、福井町通りという道路の名前だけが残っています。ここからなら浅草や両国に近くて、江戸の町を行商して歩く拠点としていい場所ですね。
#貸本屋おせん #NetGalleyJP
2689冊目(今年27冊目)
« 『ツナグ 想い人の心得』 辻村深月 26 | トップページ | 『時代の変わり目を、やわらかく生きる』 石川理恵 28 »
「本・書店・読書」カテゴリの記事
- 『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』 岡崎武志 324(2023.11.21)
- 『あしたから出版社』 島田潤一郎 308(2023.11.05)
- 『これはわたしの物語 橙書店の本棚から』 田尻久子 299(2023.10.27)
- 『書店員X「常識」に殺されない生き方』 長江貴士 277(2023.10.05)
- 『<読んだふりしたけど>ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』 三宅香帆 267(2023.09.25)
「日本の作家 た行」カテゴリの記事
- 『これはわたしの物語 橙書店の本棚から』 田尻久子 299(2023.10.27)
- 『怪談えほん4 ゆうれいのまち』 恒川光太郎 259(2023.09.16)
- 『その落語家、住所不定。』 立川こしら 247(2023.09.04)
- 『ある行旅死亡人の物語』 武田惇志、伊藤亜衣 249(2023.09.06)
- 『京都「私設圖書館」というライフスタイル』 田中厚生 244(2023.09.01)
「NetGalleyJP」カテゴリの記事
- 『これからの時代を生き抜くためのジェンダー & セクシュアリティ論入門』 三橋順子 334(2023.12.01)
- 『訂正する力』 東浩紀 326(2023.11.23)
- 『京都を歩けば「仁丹」にあたる』 樺山聡 京都仁丹樂會 327(2023.11.24)
「文学賞」カテゴリの記事
- 『荒地の家族』 佐藤厚志 236(2023.08.24)
- 『吉原手引草』 松井今朝子 206(2023.07.25)
- 『サマークエスト』 北山千尋 177(2023.06.26)
- 『アーモンド』 ソン・ウォンピョン 153(2023.06.02)
- 『お父さんと伊藤さん』 中澤日菜子 163(2023.06.12)
« 『ツナグ 想い人の心得』 辻村深月 26 | トップページ | 『時代の変わり目を、やわらかく生きる』 石川理恵 28 »
コメント