『ボタニカ』 浅井まかて 25
日本植物学の父、牧野富太郎という人は、あらゆる意味で規格外の人だったのですね。
とにかく植物が大好きで、毎日植物と話しながら野山を歩いていた富太郎少年。学校の勉強は簡単すぎてつまらなく、自ら退学してしまいました。なのに代用教員を頼まれたことがあるほどの知識と教養をたくわえた人だったのです。
植物の標本づくりも、写生もすべて独学で覚え、すばらしい文献を作っていったのですが、そのための勉強に必要な本を買ったり、地方へ出かけたりするために多額のお金が必要なのです。実家が豊かだったこともあって、お金に関してはまるで無頓着。お金が必要になったら祖母や妻に無心する、そして彼女たちがお金の工面をするという生活がずっと続いたのです。
その結果、多額の借金を作ってしまったのですが、その借金を返すということに関しても、ほとんど興味がないのです。それは誰かがやってくれるというスタンスがスゴ過ぎるのです。天才にはありがちな、自分が得意なこと以外には興味を示さないという人の典型だったようです。
南方熊楠のことを「礼儀知らず」などと言っていますけど、この2人はかなり似たようなタイプの人だったのだと思います。ですから、2人が直接会ったことがないというのがとても残念です。
植物の研究のため、古典から英語の文献まで、想像を絶する読書量と知識量を持ち、そして自分の足で植物を採取することを愛した牧野富太郎は、一生涯「植物を愛する少年」のままだったのですね。
素晴らしい研究成果を上げた人ではありますが、家族はさぞかし大変だったのだろうと思います。献身的に家族を守ってくれた奥さんがいたからこそ富太郎は研究に没頭できたということを、彼自身どれだけ理解していたのかは疑問です。
そして、学歴がないからと言って、彼を正当に扱わなかった大学の人たちの存在も、腹立たしいものがあります。上司の間違いを指摘したら逆切れして罷免するなんて酷すぎますよね。
とにもかくにも、波乱万丈の人生は面白くて、ページをめくる手が止まらなくなりました。
いやぁ、面白かった!
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