『屋根裏に誰かいるんですよ』 春日武彦 8
精神科医の春日先生は、患者さんから「屋根裏に誰かいるんですよ」と言われることが度々あるのだそう
分裂症の訴えでおなじみの「電波」「盗聴器」「脳波」「テレパシー」といったアイテムもまた、秘密組織や黒幕と言った匿名性を帯びた存在と軌を一にしている。正体がどうもはっきりしないが、明らかに大きな影響力を秘めたものという意味において。したがって、分裂病妄想では特有のキッチュさが伴いがちで、それは黒幕にしても電波や盗聴器にしても患者が実際に目にしたわけではなく、むしろ世間話やB級ジャーナリズム、大衆小説といったあたりから仕入れた胡散臭い知識がソースとなっているとおぼしいからであろう。p130
誰かから監視されている。泥棒が部屋の中のものを何度も盗んでいく。というような話は様々なところで聞きます。そんな妄想を抱くようになるのは何故なのでしょう。
ここからは、わたしの推論なのですが、人間誰しも周りから尊重されたい、見守られたいという気持ちを持っているのではないでしょうか。なのに孤独を余儀なくされると、自分を見守る誰かを作り出してしまうんじゃないかしら。「お天道様はいつも見守ってくれている」とか「神様はいつもそこにいらっしゃる」という好意的な見守りを見出す人もいるし、泥棒やスパイのような悪人に見張られているという考えに囚われる人もいるのでしょう。
大事なものをいつもと違う所に置いてしまっただけなのに「嫁が取った」と騒いだり、家族がニセモノとすり替えられているという妄想を持ったりするのも、自分をもっとかまって欲しい、大事にして欲しいという気持ちが根源にあるんじゃないかな。
もう一つ忘れてはならないのは、「家の恥を隠す」という観念です。障害があったり病気を持つ家族を入院させたり、外へ連れ出したりということが、今は当り前になりましたけど、少し前までは誰にも見られないように家の中で監禁するということが行われていたし、都合の悪いことは外に見せないという考え方が、今も生き続けているのです。
この本に収められている「座敷牢」の写真は衝撃的です。今とは人権の考え方が違っていた時代のものですけど、この考え方は今もなくなっていません。徘徊されたら困るということで、老母の足を鎖で柱につなげていたとか、家に閉じ込めていたとか、ビックリするようなことが今でもあるのです。
この本のオリジナルが出版されたのは1999年ですけど、それから20年以上経った最近でも、精神病の家族を檻のようなところに入れていたという話があったり、年老いた親と障害のある子どもが餓死していたという話があったり、妄想と孤立が一体化してしまった悲劇は数多くあるのです。
ところで、大事な秘密をずっと胸の奥に秘めていて、墓場まで持っていこうと考えていることってありませんか?頭がしっかりしているうちに死ねればいいんですけど、ボケてしまうと秘密のフタが開いてしまうことがあるのです。その話を最初は妄想だと思って聞いていたけど、前後関係を調べたらホントのことだったということがあって、唖然としたことがあるんです。
そんな話を友人としていたら、どうもよくある話らしいのです。妄想も怖いけど、そういう真実が存在することも怖いなぁ。
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