『なぜ通販で買うのですか』 斎藤駿 42
この本の著者、斎藤氏が作った「通販生活」は実に不思議な雑誌です。普通の通販カタログは無料で配るものなのに、これは有料なのです。なのに年間購読している人までいるのです。
日本中に小売店があり、ちょっとした街へ行けば百貨店もショッピングモールもある今の時代でも、通販は勢力を伸ばしてきました。そしてコロナ過で外出できなかった近年、通販は更に勢いを増しました。
通販生活の最初のヒットは、1976年の「ルームランナー」なのだそうです。「運動不足を解消する」商品は今でもたくさんありますけど、その草分けがこの商品だったのですね。
そして、1987年の「寝室に置いておくとひと晩中ホテルに泊まっているような快適さ。」というCMでヒットしたデロンギヒーター、これは我が家でも買いましたねぇ、通販生活じゃなかったけど。
「きんさんぎんざん」の CM も印象的でしたね。あの頃には、商品の面白さよりも、通販生活が薦めるものなんだから、きっと面白いんだろうというイメージが出来上がっていたような気がします。
小売りが(憲法)9条を考えて、なにが悪い。そういえば、チェルノブイリ被ばく者の救援キャンペーンを始めたときも同じようなことを言われた。当時、高名だった某ジャーナリストに応援を頼みに行ったら、「そういうキャンペーンは私たちジャーナリストの仕事です。商人がそんなことに手を出すなんてとんでもない」とケンもホロロに断られた。たぶん、チェルノブイリ被ばく者を食いものにしようとする不届者にわたしは見えたのだろう。P244
わたしたちが電化製品を購入することによって、電気の消費量が増え、それが原発が増えることにつながると斎藤さんは考えました。そういう商品を売ってきた自分たちは、原発の被害を受けた人を助けなければならないという発想を持つことは正しいと思うのです。でも、そういうプロセスを考えることなく、それは売名行為だと言われてしまうのは心外ですよね。
「販売とは商品の使用価値を伝える行為だ」 本書で私はこのことをくり返し強調した。他人は、使用価値を納得して初めて買う決意を醸造していく。(あとがき より)
商品の機能が優れているというだけでなく、「その商品を作るプロセスにおいて不正なことをしていない」ということを前面に押し出すということも、消費者に対する情報発信の意義であるはずです。児童労働や、環境破壊を容認しているところの商品は扱いません。というのは大事な主張です。
そういうスタンスを貫き通している「通販生活」はきっとこれからも生き残っていくのでしょうね。
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