『生贄探し』 中野信子、ヤマザキマリ 41
できるだけ相手を刺激しないよう、無難に仲良くlose-loseしよう、という性質です。空気を読んで、目立たないように行動しよう。誰かの反感を買いかねないような派手な格好や威圧的なファッションは避けておこう。そんなふうに日本の女性がふるまうのも、このためでしょう。p45
win-win が理想なのだとみんなは語るけど、現実には lose-lose でバランスを取ろうとするのが日本社会だという指摘はショックです。一見おだやかなバランス取りのように見えて、これって自虐的な考え方ですからね。こんなことをしていたら、新しいアイデアとか、新しいやり方とかをやろうとするのがとても困難になってしまいます。
本当はこんな服を着たいけど、本当はこんなことをしたいけど、そういう思いを隠し続けていたら、そりゃ自己肯定感は下がるばかりですよね。そして「自分はこんなに我慢してるのに、平気な顔をして目立つ服装や行動をする人を許せない」という気持ちが生まれるんだろうなぁ。
たとえば、西洋や中央では、長い年月宗教が築いた倫理や理性が人々の中で確固たる軸をなしていますが、宗教の拘束がない日本の場合は”世間体”という戒律がわれわれの生き方を統制しています。先日、コロナの陽性反応が出たことで「周りに迷惑をかけてしまった」と危惧し、自ら命を絶ってしまった女性がいたことを報道番組で知りました。周囲から非難されることをおそれて、検査が陰性でも田舎の実家へ戻らないようにしている人たちも随分いると聞いています。
下手をするとこの”世間体”は、キリスト教やイスラム教やちょっとした社会主義体制よりも、よほど厳しい戒律だと解釈することもできます。無償王だけど養成判定が出てしまい、周りに迷惑をかけることを苦に自死した女性がいるとイタリアの家族に話をしたら「なんだって!?そんなことで自殺をするなんて、自分たちには信じられない!」と絶句していました。p172
自粛警察みたいな発想って、本人はそれが正義だと信じているからこそ、どうにも止まらないのです。それは違うと指摘されても、主張を曲げないのは、自分の論理が間違っているかもしれないという疑問が湧かないからなのです。自分の言葉によって被害を受ける人がいるという想像力の欠如、無責任さは留まるところを知りません。
自分の行動や発言が法的に訴えられるという段階にきて初めて気づく人がいるそうなのですが、その段階でも「自分が悪いことをした」という自覚はなく、「訴えられる」という点にのみ反応するというのが、実に恐ろしいことだと思います。
正義中毒を満足させるために生贄を探すという行動が、実に日本人的であるということを知ってしまうと、日本で暮らすって怖いんだなぁと思いがジワジワと湧いてきました。倫理観が欠如した社会を立て直すことはできないのかなぁ?
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