『ミシンと金魚』 永井みみ 38
安田カケイさん、介護サービスを受けつつ、独りで暮らしています。
身体のいろんなところが痛いし、物忘れは酷いし、でもしっかりと生きています。今起きていることは分からなくなってしまうことが多いけど、昔のことはしっかりと覚えています。夫はどこかへ行ってしまい、夫の連れ子と自分が産んだばかりの子どもを抱えて、必死にミシンを踏んで生きてきた日々のことはよく思い出します。
昔はこういう、しょうもない男がいっぱいいました。でもね、今でもそういうのが結構いるらしいです。
わたしの友だちでダンナが失踪してしまったのがいてね、7年経ったら死んだことにできるから、そうしたら離婚するんだって、アイツの苗字のままでいるのはもう嫌だからって言ってたなぁ。
カケイさんの面倒を見てくれるヘルパーさんや、介護施設の女の人はみんな「みっちゃん」。それぞれの名前を覚えられないからそういうことにしてるのかな?って思っていたら、それだけが理由じゃなかったのね。ちっちゃいころに亡くなってしまった娘の名前が「道子」だったのね。切ないねぇ、あの子が死んだのは自分が構ってやれなかったせいだって、ずっと気に病んでたから、みんな「みっちゃん」になってたのね。
歳を取って、ひとり暮らしっていうのは決して他人事じゃない話だから、途中から切なくなってきちゃった。長生きはいいことだってみんな言うけどさ、でも、あんまり長生きするのも困ったもんだねぇって思うんだよ。
2700冊目(今年38冊目)
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