『大往生したけりゃ医療とかかわるな』 「自然死」のすすめ 中村仁一 35
本来、年寄りは、どこか具合の悪いのが正常なのです。不具合のほとんどは老化がらみですから、医者にかかって薬を飲んだところで、すっかりよくなるわけはありません。昔の年寄りのように、年をとればこんなものと諦めることが必要なのです。
ところが、「年のせい」を認めようとせず、「老い」を「病」にすり替えます。なぜなら、「老い」は一方通行で、その先には、「死」がありますが、病気なら回復が期待できますから。
人間は、生き物である以上、老いて死ぬという運命は免れません。(はじめに より)
年を取ればそれなりに具合の悪いことが増えます。老眼になり、歯が悪くなり、運動能力は落ち、記憶力も落ちます。いろんなところが痛くなったり、動きにくくなったりするのは「病」ではなく「老い」なのですが、それを認めたくない人が多いからこそ、健康食品や薬に頼った生活を選んでしまうのでしょうね。
フランスでは、「老人医療の基本は、本人が自力で食事を嚥下できなくなったら、医師の仕事はその時点で終わり、あとは牧師の仕事です」といわれているそうです。
残される人間が、自分たちの辛さ軽減のため、あるいは自己満足のために死にゆく人間に余計な負担を強い、無用な苦痛を味わわせてはなりません。医療をそんなふうに利用してはいかんのです。p80
日本は世界一の長寿を誇る国です。でも、ただ長生きすればいいという考えに囚われているような気がします。死にそうになっても無理やりチューブにつないで延命させて、それが本当に良いことだとは思えません。
その結果「病気の老人」ばかりが増えて、高額な医療費や介護費が必要になってしまっているのです。
自然死をさせてくれないのは、明らかにおかしいことなのです。それで得をするのは誰ですか?
医者にかからずに死ぬと「不審死」になる p117
最近は、ほとんどの人が病院で亡くなるので、こういう体験をする人は少ないのかもしれませんが、わたしの父が亡くなった時には「不審死」の疑いをかけられたのです。
わたしの父は特別重い病気があったわけでもなく、認知症は進んでいたけれど、食事は自力でお箸で食べていました。そんな父が突然自宅で倒れました。救急車を呼んで病院へ運んでもらいましたが、すでに亡くなっていました。運ばれた病院で3時間くらい待たされましたが、死因が特定できず、もう深夜だったので、翌日に警察署でもう一度確認作業を行うと言われたのです。
「病死か事件性があるのかを見極めなければならないから」という理由で、翌日最寄りの警察署へ行きました。警視庁から派遣された監察医に診てもらって、ようやく死因が特定されて、事件性はないということになりました。
日本の医療ってホントに杓子定規なんです。入院している場合や、自宅介護でも訪問診療を定期的にしてもらっている場合には問題が起きないんですけど、そうでない場合にはとにかく手間と時間がかかるんです。
医者に頼りっきりになったせいで薬づけになったり、本当はもう死に体なのに死なせてもらえないとか、いろんな問題があることを、この本を読んでよくわかりました。
家族のこと、自分のこと、どういう風に老いて行くのが幸せなのかを考えておかないと、死ぬ間際に酷い目にあわされてしまうのが、日本という国なんですね。
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