『名画の中で働く人々』 中野京子 82
ピーター・バラカンさんの「The Lifestyle Museum vol.760」で中野京子さんのお話を聞くうちに、気になったこの本を読みました。西洋画では、宗教画や王族などの肖像画や、闘いに勝利した場面などが多く描かれています。通常はその主人公である中央に描かれたエライ人や美しい人を中心に絵を見てしまうのですが、中野さんが興味を持つのは、その周りに描かれている「働く人々」なのです。
宮廷音楽師、道化、侍女、羊飼いなど、そういう存在は知っているけれど、彼らの仕事の内容について、意外と知らなくてビックリすることがこの本に書かれています。
羊飼いなんて、のんびりしている仕事でいいなぁなんて思ったら大間違い!あの羊たちは自分のものではなくて、預かってきた羊たちが食事できる草原を探し、狼などに襲われないように注意を払い、たった一人で働くのです。元々人嫌いな人ならいいですけど、孤独な仕事なのです。
侍女というのも、ただの召使ではなく、上流階級の人のそばで働く女官というランクの仕事なのだそうです。おお、だから彼女たちの身なりが良いのですね。
そして、中野さんの本に度々登場するガヴァネス(住込みの家庭教師)は、良家の子女で教養もマナーも身につけているというのが条件なのですが、雇い主が成金だったたりすると、彼女たちのことを使用人という感覚で雇っていた場合もあったようです。余談ですが、かの有名なキュリー夫人も若かりし頃はガヴァネスとして働いていたそうです。若くて教養があって、でも貧しい女性が就ける職業は、これくらいしかなかったということなのですね。
この本の表紙は「 じゃあ君が最後にお父さんを見たのはいつだったの」という、逃亡した父親の行方を幼い男の子に異端審問官が質問している絵です。そういう説明がなかったら、「可愛い男の子だねぇ」で終わってしまいそうな絵ですけど、嘘をつけない子どもの証言で父親の命が狙われているという怖い絵なのです。この絵は、マダム・タッソーの蝋人形館にあるというのも怖い絵だからこそなのでしょうか。
2744冊目(今年82冊目)
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