『料理と利他』 土井善晴 中島岳志 87
土井 まずは、人が手を加える以前の料理を、たくさん経験するべきですね。それが一汁一菜です。ご飯とみそ汁とつけもんが基本です。そこにあるおいしさは、人間業ではないのです。他人の力ではおいしくすることのできない世界です。みそなどの発酵食品は微生物がおいしさを作っています。
ですから、みそ汁は濃くても、薄くても、熱くても、冷たくても全部おいしい。人間にはまずくすることさえできません。そういった毎日のかなめになる食生活が、感性を豊かにしてくれると、わたしは考えています。(p35)
おいしいものを作るなんておこがましいことを考えてはいけないんですね。素材のおいしさをそのまま頂くことができれば、それで十分においしいんです。みそ汁を作る時にダシなんか入れなくていいんですよって土井先生はおっしゃってます。発酵食品である味噌のと具のうまみがあるんだから、それでいいんだよって。確かに、それで充分においしいですものね。
中島 土井さんは料理番組でよく「あんまり混ぜんほうがいい」っておっしゃっていますよね。
土井 はい、混ぜたらあきません。
中島 とにかく、ムラがあったらそれでええやないかと、味にムラがあるということがそれぞれのおいしさなんだという、これもおもしろいですね。
土井 混ぜたらたいていのもんはきたなくなるんですよ。赤、青、緑、三色以上混ぜたらグレーになって、たいていは汚くなる。だけど、混ぜないで、たとえばポテトサラダなんかでも、「あ、今美しい」というのがね、いちばんおいしい瞬間。これを混ぜすぎると粘ってしまうし、雑味になったり、早くから混ぜていると浸透圧がはたらいて自由水と言われる水が出てくる。時間とともに雑菌が増えて味を落とし、腐りやすい、あるいは体に悪いものになる。酸化や腐るという方向になってくるわけです。出来立てが一番純粋で清いんです。和食は「この瞬間」のおいしさを、食べています。p55
適当に味にムラがあったほうが、色々な食感を楽しめるからおいしいのだという考え方がステキだなぁって思います。焼け具合、味の浸み具合、そういう違いを噛みしめながら食べるって大切ですね。
この本を読んでわかったのは、食べ物も人間も、すべて同じにしようと思うから無理が出るのだということです。ある程度バラツキがあった方がおいしい、おもしろい、美しい、そういう感覚こそが利他なのですね。
この本は、コロナ過で公開イベントができなかった時期に、ミシマ社が主催したオンラインイベント、「MSLive! 」を書籍化したものです。家で食事を作る機会が増えて、疲れを感じていた人たちが土井先生の「一汁一菜でいいんですよ」という言葉で、どんなに力づけられたことか。
外食や宅配やケータリングがどんなに便利になっても、やっぱり基本は「うちのごはん」ですものね!
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