『バールの正しい使い方』 青本雪平 83
小学4年生の要目礼恩(れおん)は、今日から新しい学校へ行きます。お父さんの都合で転校することばかりなので、さほど緊張はしていません。でも転校した最初の数日でクラスの中を観察して、自分の立ち位置を見つけなければいけません。転校生が上手く生きて行くには、カメレオンのように擬態する能力が大事だと礼恩は考えているのです。
どんなクラスにいっても誰からも相手にされていない子が必ずいます。その子がどうしてそうなったのかを直接聞いてはいけないということはわかっているから、それとはなしに聞こえてくる「あの子は嘘つきだ」とか「親が犯罪者だから」「乱暴な子だから」というような話から推測するのです。
そして、みんなの話を聞いているうちに気がついたのは、みんな嘘つきだということです。
バールのようなものを持って現れる犯罪者のことが、小学生の間で噂になっています。礼恩は、バールって本当は大工道具なのに、それを犯罪に使っちゃいけないよねって思ってます。それと同じように嘘っていうものも、たわいもない嘘とか、誰かを守るための噓ならいいけど、他人を貶めるための嘘はいけないよねって思ってます。
礼恩は小学生だけど、精神年齢はかなり高いような気がします。もしかしたら、すぐに気が変わるお父さんよりよっぽど上なのかなって思う時もあります。でも、その分孤独なのかもしれません。
6年生のとき、礼恩は希望(のぞみ)と病院で知り合いました。今まで擬態することばかり考えてきたのに、希望といるときだけは自然体でいられる。それがとても幸せなことなんだと感じたのです。
・プロローグ
・狼とカメレオン
・タイムマシンとカメレオン
・五人とカメレオン
・靴の中のカメレオン
・ブルーバックとカメレオン
・ライオンとカメレオン
・エピローグ
短い時間しか同じ学校へいられなくて、いろんな所へ転校していく礼恩が、一度だけ同じ学校に戻ってきた時に、同級生の背が高くなってビックリしたという所で、なぜか「ポーの一族」のエドガーのことを思い出しました。成長しない自分を怪しまれないために、転々としていく物語のことを。
最後の展開にはビックリしました。だからエドガーを思い出したのは、まんざら間違いでもないなと思ったのです。
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