『愛媛県新居浜市上原一丁目三番地』 鴻上尚史 85
鴻上さんが、これまでの人生を過ごしてきた場所のことを語ります。生まれ育った場所、演劇を仕事とするきっかけとなった大学、そして今住んでいる家。当時はツライと思っていたことが、今となれば楽しい思い出となることが多いのですが、やっぱりツラかったなぁと思うことも色々とあるのです。
・「愛媛県新居浜市上原一丁目三番地」
生まれ育った実家の家がなくなる前夜、僕はこの家の物語を書き始めた。
・「東京都新宿区早稲田鶴巻町大隈講堂裏」
大学2年の4月、愛媛から出てきた20歳の若者は、演劇に興味を持っていた。
・「東京都杉並区××二丁目四番地」
演劇を仕事にして40年も経ってしまった。63歳の僕は、引越してきたばかりの家で、ここが終の住処になるかもしれないと感じている。
鴻上さんのご両親は教師でした。鴻上さんが子どもの頃、両親は日教組から睨まれる立場にいました。そのため、父は家からかなり遠くの学校へ赴任していました。今ではあり得ないことですが、当時はそんなことが当然のこととして行われていたのです。
鴻上さんは高校生の時に生徒会長になりました。当時は制服に関する規則が厳しくて、それに疑問を感じていました。そこで、学校には内緒で県内の他の高校と協力して、それぞれの学校の校則を比べていったのです。すると、矛盾だらけだということがわかりました。
たとえば、鴻上さんが通っていた学校では、女子のストッキングは黒のみでしたが、別の学校ではベージュのみ。その学校の生徒会長が生徒指導の教諭に「なぜ黒はダメなのか」と質問したところ、「黒は娼婦っぽいだろ」という回答だったというのです。それを知った鴻上さんの学校の女子は、「わたしたちって娼婦っぽいのかしら?」と笑っていたそうです。
最近やっと「ブラック校則」が世間の話題になるようになってきましたけど、鴻上さんが高校生だった頃から数えて50年近くなるというのに、いまだに意味不明の校則が存在しているということに驚きと怒りが湧いてきました。
更に凄いのが、当時の文部省が「文化系部活動の他校との交流の基本的禁止」というとんでもないお触れを出していて、その理由が「文科系のクラブが交わるとアカになる」という判断だったというのです。
スポーツの交流は盛んにおこなわれていたのに、こんな考え方のおかげで愛媛県の学校では演劇部などの文科系の部活が他の学校と交わる大会の開催することができなかったのです。ですから演劇の全国コンクールの愛媛県の予選会はなく、いつも同じ私立高校が出場していたのだそうです。
鴻上さんはそれに疑問を持ち、県内でのコンクールが開催できるように活動したのです。
大学に入ってからは、演劇部内での、上級生からの圧倒的なパワハラの話とか、鴻上さんが主宰している第三舞台が認められたとたんに、それまであれこれ文句を言っていた人たちが手のひらを返してすり寄ってくる様とか、生々しく語られています。
鴻上さんがずっと、こういう理不尽なことと戦い続けてきたんだなということがよくわかります。でもそんなことよりも「コロナによって舞台を続けることができなくなった」ことが、一番ツライ出来事だったというのは、とても悲しいです。
いろんなものを失くしたけれど、鴻上さんはきっと力強く生きて行く方だと思います。だって演劇の火を消すことはできないのですから。
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