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『シンクロと自由』 村瀬孝生 102

Sinkuro

シンクロと自由

シリーズ ケアをひらく

村瀬孝生(むらせ たかお)

医学書院

 特別養護老人ホーム「よりあいの森」の所長、村瀬さんは大勢の老人たちと付き合ってきました。彼は老人たちが発する不思議な言葉に耳を傾け、それがなぜ発せられてくるのかを考え続けているのです。

 

不自由になる体は私に新たな自由をもたらすのである。時間の検討が及ばないことで時間から解放される。空間の検討がつかなければ場に応じた振る舞いに囚われることもない。たとえ寝たきりになってもその場に縛られてはいない。子どもの顔を忘れることで親の役割を免じられる。覚えていないことで毎日が新鮮になる。怒りや憎しみが溜まりづらくなり喜びが訪れやすくなる。p55

 空気を読むとか、自分の立場にあった行動をするとか、責任を負うとか、わたしたちはいつもプレッシャーを受けながら生きているのだけれど、そういうことから解放されるのだとしたら、老いてボケるということは、幸せなことなのかしら?わからない、気がつかない、しがらみがない、それこそが自由なのかもしれません。

 

すべての世代の「わたし」が生き続けているのではないだろうか。57歳のぼくの体には0歳も、22歳も、45歳も存在している。ぼくは多世代人格によってなっている。p118

 現在の年齢というのは確かにあるけれど、何かの折に5歳のわたしの気持ちになったり、20歳のわたしの気持ちになることがあります。いまのわたしは、瞬時に現在の自分に戻って来てしまうけど、それができないようになるというのは、なんとなく理解できるのです。

 年老いた親が自分の子どもを小学生だと話すとき、自分自身は小学生の親の歳に戻っているのです。だから実際には中年になっている自分の子どもを見て「あなたは誰?」と言ったり、「わたしの妹」と言ったりするのです。そういう混乱は、初めて遭遇した時にはショッキングな出来事だけれど、慣れてしまえば、「今あなたは、40代のあなたなのよね」という対応ができてくるのです。

 

お爺さんは自分の意志で入居していない。家族もまた、家族の意志で入居させたのではない。ぼくたちもまた、ぼくたちの意志で入居を受け入れたのではない。いわば、わたしたちの社会がつくり出した都合によって入居することになったのだ。p136

 「せっかくホームに入れてもらったのに、いつもウチに帰りたいってお爺さんが言う」と家族は話すけれど、お爺さんが自ら入りたくて入ったわけじゃないのよね。家族で面倒を見きれなくなった、目を離すと徘徊する、ひとり暮らしが無理、そういう理由をつけて、ここに入れられちゃったのだから、ウチに帰りたいのよ。自分はこんな場所へ連れてこられちゃったという思いが強いのよね。そこを理解できれば、優しく接することができるのよね。

 

 ある時間になると通帳がみつからないと言ってくるお爺さん。亡くなった母もここでお世話になってもいいのかしらと聞くお婆さん。理屈で考えたらおかしなことを言っているけれど、その意味をよく考えると、その人の心の中が透けて見えるような気がするのです。

 最初は何を言っているのかわからなかったけど、「話につき合っているうちに意味がわかって来る」、「そばにいるだけで、何となく相手が何をしたいのかがわかって来る」という感覚(シンクロ)でお世話してくださる人たちがいるホームで暮らすことができる老後って、幸せだなぁって思うのです。

 

 この本を読んでいると、「ああ、そういうことなのか!」と思うことが色々とあるのです。こういうことって、よくあることなんだとか、こうやってみたらよかったのかな、と気がつくところがたくさんありました。「シンクロと自由」ってそういうことだったんですね。気がついたら、人生について考えさせられてしまいました。

2764冊目(今年102冊目)

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