『旧町名さがしてみました in 東京』 102so 111
住居表示をわかりやすくしようという趣旨で行われた町名変更によって、地図上から無くなってしまった町名がたくさんあります。でも、意外なところに旧町名が残っているのです。それは駅名やバス停名、お店の屋号、橋の名前、変わったところでは電柱につけられている金属の画標、鉄道の高架橋の名称などがあります。
この本ではそういった旧町名を捜し歩いているのです。たとえば「ヨドバシカメラ」の淀橋という地名、現在は西新宿になってしまっていますけど、このお店ができた頃は、ここは淀橋という地名で、近くには淀橋浄水場があり、その跡地がに新宿西口の高層ビル群となっています。
淀橋の隣の角筈(つのはず)という地名も、いまやバス停名としてしか見ることができませんが、浅田次郎さんの「角筈にて」という短編(鉄道員 に収録)に、この辺りのことが書かれていました。
わたしにとって身近な旧町名No.1は、千代田区の神田三崎町です。戦時中、水道橋に近いこの地にわたしの父が住んでいたのです。「あの頃は食糧難で、後楽園のグランドは畑になってたよ」という話を聞かされたことがありました。わたし自身、この三崎町の神保町寄りの場所に勤めていたこともあり、とても思い入れのある場所です。
今は地下鉄の駅名としてしか残っていない「稲荷町」ですが、関東大震災(1923年)のころ、母の実家の親戚の人が住んでいました。被災して、着の身着のままで上野の山に逃げて途方に暮れていたら、数日後に母の実家(現在の栃木県小山市)の人が生活物資を乗せた大八車を引いて助けに来たのだそうです。それをずっと恩義に思っていてくれたのだという話を子どもの頃に聞かされました。
どの地名にも、そういう名前になった理由があります。その地域に特定の職業の人が集まっていた(木挽町、鍛治町、御徒町など)とか、地形を表している(谷、川、江、台、淵など)とか、富士山が見えたから富士見町など。そういうことを無視して新しい住所表記にしてしまったのって、余りにも役所的で悲しいなと思うのです。
わたしの家の近所に「立川(たてかわ)」という地名があるのですが、これは元々「竪川」という地名でした。この本でも取り上げられていますけど、東西に走る川が竪川、南北に走る川が大横川です。これは江戸城を基準につけられた名前なのです。
この「竪川」という字が読めなかった役人が「こんなわかりにくい字はやめろ!」と言ったことで「立川」になってしまったのだと、ご近所の長老がボヤいてました。
そして、この本の中では地名だけが記載されていた「柳原町」が「江東橋五丁目」になってしまったのは、当時の町会長が「そうしてください」と町会の相談もなしに返事をしてしまって決まったことなのだという話も聞きました。町民の意見も聞かずに決めてしまう権威主義って、酷いもんだと思います。
こうやって古い地名を探すのは、なかなか楽しいことだなと気づかせてくれた本でした。
2773冊目(今年111冊目)
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