『鳴かずのカッコウ』 手嶋竜一 100
梶壮太は公安調査庁で働いています。でもここは、警察や防衛省のように力や金を持っている部署ではないのです。海外のインテリジェンス機関と違って、地味な役所なのです。調査するにしても名刺や身分証を提示することすらできません。誰でも見ることができる情報の中から、これはと思うものを見つけ出し、静かに、目立たないように調査をする機関、それが公安調査庁なのです。
同僚の西浦帆稀(Missローレンス)は子どもの頃から海外暮らしをしていたので、数か国語話せるし、初対面の人との話もスムーズだし、美人だし、すてきだなぁという思いを壮太はいつも心の奥にひそめています。でも彼女の理想の人は「アラビアのロレンス」なのです。ピーター・オトゥールが相手じゃ敵わないなぁ(笑)
カッコウが自分の卵を黙って他の鳥の巣に置いて育てさせるように、人を欺いて情報を収集するというのが諜報の基本だという話が、この本のタイトルになっているのです。目立たない、記憶に残らない壮太の存在は、この仕事をするのにとても適しているのだという上司の評価は、ラストの展開へつながっているのでした。
神戸のシップブローカーをめぐる大国間の情報を掴むため、壮太はその会社の社長夫人が主催している茶道教室に生徒として潜り込みます。ウクライナのリヴィウ出身のステパン・コヴァルチェックという男が、廃棄するはずの船を中国へ運び、再度使用できるようにしたという話にはビックリしました。
さらにビックリしたのが、日本製の車を運ぶ自動車専用船を転売されては、新しい船が売れなくなるからという暗黙のルールがあるなんて、しかも廃棄という言い訳で、海洋に投棄しているなんて、なんて酷いことをしているのでしょう!
ウクライナ人が登場したところから、かなりドキドキ感が増してきました。こういうことも、ウクライナが狙われる理由の一つなのかもと思えてきたのです。
「危機の読書」で紹介されていたこの本、大変に興味深く、なおかつ面白い本でした。
余談ですが、ウクライナの昔話の「エンドウ豆太郎(コティホローシュコ)」が桃太郎そっくりなのよという話が出てきました。
こちらで読めるので、興味のある方はどうぞ。
2762冊目(今年100冊目)
« 『沼にはまる人々』 沢木文 99 | トップページ | 『味わい、愉しむ きほんの日本語』 齋藤孝 101 »
「日本の作家 た行」カテゴリの記事
- 『怪談えほん4 ゆうれいのまち』 恒川光太郎 259(2023.09.16)
- 『その落語家、住所不定。』 立川こしら 247(2023.09.04)
- 『ある行旅死亡人の物語』 武田惇志、伊藤亜衣 249(2023.09.06)
- 『京都「私設圖書館」というライフスタイル』 田中厚生 244(2023.09.01)
- 『まちの本屋』 田口幹人 242(2023.08.30)
コメント