『本屋で待つ』 佐藤友則 143
この本の著者、佐藤さんは、広島県庄原市東城町(とうじょうちょう)という山あいにある複合書店「ウィー東城」の店長さんです。元々お父さんが本を、お母さんが化粧品を扱うというお店だったのですが、友則さんの代になってから、更に扱い商品が増えて行ったのです。といっても、これが儲かりそうだと思って始めたものは1つもありません。
とにかく、町のみなさんが何を必要としているのかを「聴く」というところが、この店のポリシーなのです。写真を急いで現像したいという人がいたり、プリンターが壊れたので見て欲しいという人がいたり、この店の取扱い商品以外の事でも、とにかく相談にのってくれるのです。
ここは町の「よろずやさん」であり、「お悩み相談所」でもあるのです。困ったことがあったら、とりあえずここへ行けばいいという信頼を得るには時間がかかりましたけど、着実にそう思ってくれる人が増えたのです。
お客様だけでなく、この店で働いている人にも様々な物語があります。
一歩が踏み出せない子達との出会いが僕をゆっくりと変えてくれました。なぜか次から次へと学校に行けない子達がウィー東城店で働くようになり、どうしたら彼ら彼女らと一緒に歩めるようになるのだろうと考える事は、自然と駆け足からジョギングへ、そして寄り添い歩くことへ、最後には泥水の泥が沈殿していくようにそこに静かにとどまり受け止めることを可能にしてくれました。
待つということは聴くということとよく似ています。待てない人はおそらく人の話(心の奥底の想い)を聴けていないと思います・・・。かつての僕がそうであったように。静かに待つということは案外難しく、特に僕には難しい行為でした。でも、彼ら彼女らの事を理解しようと思えば待つしかなかったのです。逆に言うと、彼ら彼女らが待っていてくれたのかもしれません。p196
自分のペースでばかり考えていると、どうして、あの人はできないのだろうなどと思いがちです。そして、あそこができない、ここができないという不満ばかりが湧いてきてしまいます。でも、最初から何でもできる人なんていないのです。得意なことも不得意なこともあるんです。その人なりのやり方でわかるようになること、できるようになること、それをじっと待つことがリーダーの仕事なのだとわかるまでに、かなりの時間が佐藤さんには必要でした。
わたしがあなたを待てるということと、あなたがわたしを待ってくれるということ、その両方があるのが「信頼」なのです。
「信頼」こそがウィー東城店が存在し続けている理由なのでしょうね。
この書店を一度訪れてみたいという気持ちでいっぱいになりました。
2805冊目(今年143冊目)
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