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『アスペルガーの館』 村上由美 150

アスペルガーの館

村上由美

講談社

六歳で母から自閉症を告知されて以来、私は自分の障害に対して肯定感をもつことができなかった。自閉症である自分のルーツが知りたくて、大学では心理学を勉強したが、ここでも納得できる答えは得られなかった。ただ、言語聴覚士の仕事に就いて、自分と同じ発達障害の子どもたちを支援していきたいという将来の目標は明確になった。

一方、同じアスペルガーのある夫と一緒に暮らし始めてみると、育った環境や価値観のちがいから衝突することも多く、アスペルガー当事者の家庭が抱える苦労を、私も身をもって実感した。また、彼と出会ったことで、改めて療育の意味について考えさせられた。彼と出会うことなく就職していたら、成人後に自分の障害を知った当事者が抱える問題に気づくチャンスもなかっただろうし、療育のあり方に対して、なんの疑問も持たなかったかもしれない。P211

 3歳まで言葉を発することがなかった由美さんのことを心配して、お母さんはありとあらゆる医師に診てもらいました。でも、ほとんどの医師からは原因はわからないと言われていたのです。でも、たったひとりだけ「お嬢さんは、脳の微細な機能障害による自閉症だと思って間違いないでしょう」と言ってくれたのです。

 その後、由美さんがこの本を読んでと指さす本を、お母さんは何度でも読み聞かせました。それが療育(治療教育)のスタートでした。セラピーの先生も来てくれました。そうするうちに、彼女は言葉を話すようになったのです。ことばをたくさん体に入れることによって話すことができるようになったけれど、それは一方的に話しているだけで、コミュニケーションをとることはまだできていなかったのです。

 そんな彼女ですから、いじめられることもありました。他人から理解されることなど皆無です。かなり理解しているはずの両親ですら、由美さんの行動に振り回され、怒ったり、不安になったりしていたのです。

 

 「自閉症」の症状やつき合い方について、最近はだいぶ改善されてきましたけれど、集団生活を行う学校という場所での理解のなさはつらいことばかりです。小中での枠にはめられる生活はとにかく苦しかったようです。そんな環境から逃れるために選んだ、自由や自主性を重んじる高校に入ったあたりから、彼女はかなり気持ちが楽になったようです。

 そして、大人になってから気がついた、両親が押し付けてくる価値観にもかなり苦しめられました。娘をなんとかしないとと考えた母親の努力はありがたいものだったけれど、でも、やっぱりわかってくれない部分(就職が上手く行かないことを責められたり、何かというと障害のせいにしたり)が嫌で嫌でしょうがないのです。

 そのあたりに「もう声なんかいらないと思った」の弘枝さんのお母さんと共通する点を感じました。障害がある娘のことを思って必死に教育してくれたことは素晴らしいけれど、間違った価値観(聾者である弘枝さんに対して、お母さんは手話を認めず、口話のみを教えました)を押し付けてしまうことの危うさもあるのです。本当に本人のことを思うなら、そこまでしてはいけないという線引きが難しいのだなということを感じました。

 幸い由美さんは、すばらしい男性と出会い、紆余曲折はあれど家から出ることができてよかったです。

 同じような障害がありながら、大人になるまでそれに気づかずにいた旦那さんに困ったなと思うこともあるけれど、のびのび育ってきた彼のことを羨ましくも思う点もあるのです。療育をする立場と、当事者としての立場、その両方がわかることで、うまくいくこともあるし、悩むこともあります。様々な体験を通して彼女は言語聴覚士としての仕事を続けています。彼女のような人の存在は、ほんとうに貴重です。

江戸とアバターで紹介されていたこの本、読んでみてよかったです。

2812冊目(今年150冊目)

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