『わかれ縁』 西條奈加 165
江戸時代に、裁判や訴訟のために地方から江戸にやって来る人を泊める宿屋を公事宿(くじやど)と呼びました。そこでは訴訟のための書類作成の代書や、手続きの代行もしていました。馬喰町に多くの公事宿があり、この物語に登場する「狸穴屋」もその界隈にあり、常に何人かの客が逗留しています。
今で言うと行政書士や弁護士が常駐する宿という感じです。こういう場所が成り立つということは、江戸時代にも事件や訴訟問題がたくさんあったということなのでしょうね。
この6編が収められています。
・わかれ縁 絵乃の亭主は浮気と借金を繰り返すばかりの情けない男。そんな亭主と暮らす長屋から飛び出した絵乃は、椋郎(むくろう)という男に出会い、彼が働いている「狸穴屋」という公事宿(くじやど)の世話になることになりました。
・二三四の諍い 狸穴屋に相談にやってきたのは10代の兄妹、彼らの両親を離縁させたいというのです。
・双方離縁 かつて狸穴屋で働いていたお志賀さんやってきました。旦那さんの友人の家で、嫁姑の仲が悪くて困っているという相談があったというのです。
・錦蔦 夫婦の離縁は丸く収まったのだけど、ひとり息子をどちらが取るかで困っているという相談が持ち掛けられました。
・思案橋 12歳の時に生き別れになってしまったおっかさんを、絵乃は町で見かけたのです。
・ふたたびの縁 絵乃の亭主、富次郎が差される事件が起き、その下手人としておっかさんが番屋に名乗り出たというのです。
江戸時代に離縁すると宣言できるのは男側だけで、女側からお願いをしてもなかなか受け入れてもらえないことが多かったのです。男側(家)から一方的に離縁を言い渡されてしまう女性もかなりいました。ですから、離婚調停を得意とする公事宿「狸穴屋」には、かなりの数の依頼があったのでしょうね。
離縁状が三行半と呼ばれるのは、その文章のひな型が三行と半分くらいのものであったからなのです。この物語の中にも登場しますけど、本当の理由は書かずに、ご縁がなかった的な文章が普通だったようです。この三行半があれば、再婚も可能なので、大事な書類だったのです。
江戸時代の話だけれど、そこで問題になっている人間関係は、昔も今も変わらないことばかり。困っている人を助けようという気持ちと、仕事としての範疇の間で悩んだり、調べ物をしたり、役人と張り合ったりする狸穴屋さんで働くことになった絵乃さん。女将さんの桐さんや椋郎さんや優しい花爺に助けてもらえるんだもの、今度こそ幸せになるんだよ。
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