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『アーモンド』 ソン・ウォンピョン 153

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アーモンド

ソン・ウォンピョン
Sohn Won-Pyong

矢島曉子 訳

祥伝社

韓国

2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位

一万円選書 の中の一冊

 頭の中にある偏桃体(アーモンドほどの大きさの器官)が人より小さくて、怒りや恐怖や喜びなどの感情を感じることができないソン・ユンジュは、母親と祖母との3人暮らしでした。この障害のために、彼は周りからいじめられたり、陰口をたたかれたりしていたけど、母と祖母がいたから、なんとか生活は成り立っていました。

 ある日、町中での傷害事件によって祖母は亡くなり、母親は植物状態になり、ユンジュはひとりで生活することになってしまったのです。彼はこの障害があるために、家族がいなくなって悲しいとか、寂しいという感情は持っていません。そういう所も、周りから見ると「気持ち悪い」とか「怪物」と思われてしまうのです。

 「目の前でお祖母さんが死んだのに、ただ立っていただけなんだって?」と聞いてくる人もいれば、「あの子はいつも無表情でロボットみたいだ」と陰で言っている人もいます。興味本位でそんなことをしてくるのです。ユンジュはそういうことに対して嘘をついたり、胡麻化したりすることができないのを知っていて、わざわざ質問する人もいます。

 世の中には様々な障害を持った人がいます。不思議な行動をしたり、他人には理解不能なこだわりを持つ人もいます。それが嫌な人から見れば、変な人、怪物なのでしょうけど、わざわざ指をさして「あいつは怪物だ!」と言う必要があるのかしら?自分は健常者だと、一段上から見ている気になってしまうのは何故なのでしょう?

 

 ユンジュはゴニという同い年の不良少年と出会います。周りの人たちはゴニのことを「そばに寄りたくない人」という扱いをしています。でもユンジュはゴニに興味を持ちます。この少年はどうしてこんなしゃべり方をするのか?どうして乱暴なことばかりするのか?話をしてみると、なかなか面白い人間なのだということがわかります。

 普通の人たちが嫌がるようなゴニと、素直に向き合うことができるユンジュだからこそ友達になれたということは、これは凄い才能なんじゃないかしら?人はそれぞれ違っていて、それぞれの考え方、それぞれの生き方をすればいいんだよねと、心から思いました。

 走るのが好きなドラに興味が湧いてきたあたりから、ユンジュは一歩違う世界へ踏み出したような気がします。

 ユンジュ、きみの未来はきっと明るい!

2815冊目(今年153冊目)

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