『塀の中のおばあさん』 猪熊律子 162
法務省では2018年度から、全国の主要8か所の刑務所に入る60歳以上の受刑者に認知症の検査を義務付けた。2019年度からは2つの女性刑務所が加わった。
2020年度においては、対象者930人に検査を実施し、うち、医師による診察を受けた者が195人(約21%)、認知症の確定診断がされたものが54人(訳6%)だった。
検査の担当者は、「認知症の受刑者の中には、罪を起こした自覚がなく、なぜ自分がここにいるのかがわからない人もいます。それでも刑務所としては受け入れざるを得ない。刑罰の内容もわからないのに、そのまま刑務所に入れておくのはどうかと個人的には思います」と話す。こうした疑問は、他の刑務所でも複数聞かれた。P65
この本の帯の写真を見てください。介護用ショッピングカートを押す高齢女性たちは受刑者です。カートを押しながらでも動ける人はいい方で、完全に要介護の人たちが刑務所内にいるのです。
彼女たちのほとんどは重大な犯罪を起こしてはいません。そのほとんどが万引の常習犯です。年金生活でお金に関して不安がある人、ひとり暮らしの人、そして認知症に気がつかない人。刑期を終えて家へ戻っても、寂しい環境が変わるわけではありません。また刑務所に戻ってきてしまう人がかなりいるそうです。そして「ここにいると話し相手もいるし、みんな優しいし、暮らしやすい」と言うのです。
高齢女性に、刑務所の方が暮らしやすいと言わせてしまう世の中って間違ってますよね。家族や近所の人たちとの関りが減って孤立化していくことで、精神的に追い詰められていく。それは若い人たちも同じで、こういう形で犯罪を起こしてしまい、刑務所へ入ることになってしまうってことの危うさをひしひしと感じました。
若い女性が犯罪を犯す原因となっているのが、男から言われた「太った女はイヤだ」という言葉が摂食障害を招いていたリ、「やせるから」と悪い友達にそそのかされて薬物中毒になってしまったり、親から愛された記憶がないとか、ヤングケアラーで友達がいないとか、つらいことばかりで、やるせなくなってしまいます。
そして、彼女たちが刑期を終えて世間に戻っても、「前科者」というレッテルを貼られて仕事にも就けず、結局刑務所に戻ってしまうことが多々あるそうです。刑務所の中の方が生きて行きやすいと思わせてしまう現実は、どうすればよくすることができるのでしょうか。
自殺すると弱い人、ホームレスになると怠けている人、刑務所に行くと悪い人と言われるが、「ベースは同じ。生きづらさの現れ方が違うだけ」(冤罪で刑務所にいたことがある元厚生労働事務次官 村木厚子さんのことば)
ということを肝に銘じていこうと思います。
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