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『黒い海』 伊澤理江 175

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黒い海

船は突然、深海へ消えた

伊澤理江(いざわ りえ)

講談社

2023年
第54回 大宅壮一ノンフィクション賞 

第71回 日本エッセイスト・クラブ賞

 2008年、太平洋上(犬吠埼から東へ約350キロ)で碇泊中の中型漁船「第58寿和丸」が沈没、17人もの犠牲者を出した。生存者の証言によれば、船から投げ出された彼らは、船から流出したと思われる油まみれの海を無我夢中で泳ぎ助かった。引き上げた遺体は油まみれで顔が真っ黒になっていたという。

 沈没原因は船を引き上げなければわからないのだが、5000メートル以上の深海に沈んだ船を引き上げることはできず、原因は不明のままだった。

(東日本大震災)の大混乱が全く収まっていない2011年4月22日、運輸安全委員会は第58寿和丸の事故報告書を公表したのだ。

本来は1年で報告書を出さなければいけないはずなのに、それを過ぎても委員会は報告書を出さなかった。『結論を出さないのはおかしいんじゃないんですか』と、ずっと言っていたんだけど、出されてみると、あのタイミングか。と

野崎(第58寿和丸を所有していた酢屋商店社長)や第58寿和丸の生存者らにショックを与えたのは、報告書の公表時期の問題だけではではなかった。彼らを納得させる内容にはほど遠かった。P145

野崎は、最初に報告書を見た時「あり得ない状況を組み合わせることで、どうやったら波で転覆させられるかを一生懸命考えたような内容だ」と思った。P147

 生存者の証言では、船は波をかぶって沈んだのではなく、「二度の衝撃を感じた」後沈み始め、大量の油が流出していたというのに、それらは完全に無視され、船の管理ミスと高波のために沈んだと結論付けられてしまったのです。

 

 この話を2019年秋に知った著者は、疑問を持ち、資料を集め、当時を知る人から話を聞き、調査を始めました。すると、報告書に書かれていることのほとんどが「現実とはかけ離れたこと」であることに気づくのです。そして、当時の役人たちはみな、この話をしたがらないのです。当時担当したはずの事故なのに「知らない」「覚えていない」というのです。

 調査を進めるなかで、第58寿和丸は潜水艦に「当て逃げ」されたのではないか?という疑惑が湧いてきました。世界で起きた潜水艦がらみの事故を調べてみると、「えひめ丸」の事故のように相手が特定されたものだけでも、かなりの数に上るのです。

 

 そして、潜水艦がらみの事故を調べるうちに、こんなことも知ることとなりました。

2000年8月、巡航ミサイルを搭載したロシアの原子力潜水艦クルスクはノルウェー北方のバレンツ海で事故を起こして沈没し、最終的には乗員118人の命が失われた。事故を知った米国と英国、ノルウェーの各海軍が支援を申し出たが、ロシアはすべての支援を拒んだ。機密保持のためだ。その時点では多くの乗員が生存していたにもかかわらず、だ。のちにノルウェーとロシアの潜水士らが館内を調査したところ、乗員の大尉は艦の沈没後に船尾の区画で生きていた23人の乗員の名前をメモに書き残していた。P146

 現在、ウクライナのダムが決壊した地域に国連が援助活動をしています。該当地域にロシア人が大勢住んでいるにもかかわらず、ロシアは国連の援助を拒否しています。その考え方の根底には、こういう考えがあるのかもしれません。

 

 潜水艦や軍事の専門家たちが言うには、当時中国は事故が起きた海域まで出てくることはなかった。ロシアも韓国もやってこない、あそこを通過するのは日本とアメリカだけ。日本の潜水艦なら事故を隠し通すことは不可能。

 こういう不都合な真実が、他にもたくさんあるのでしょうね。真相は明らかにはなっていませんけど、そうなんだろうなと想像してしまうのは、わたしだけではないと思うのです。

 

沈没したタイタニック号見学ツアーの潜水艇「タイタン」の事故(2023年6月19日発生)の調査状況を見ていると、この事故のことだって、もっと真剣に調べて欲しいと思えてならないのです。

2837冊目(今年175冊目)

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