『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』 内田洋子 174
モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
Montereggio Vicissitudini di librai viaggiatori da un paesino
内田洋子(うちだ ようこ)
文春文庫
著者の内田さんが、足しげく通うヴェネツィアの書店で、思わぬ話を聞いたところから旅が始まります。
「私の祖父が創業しましたので、息子はまだたったの四代目です。それに父の家系はヴェネツィアではなく、トスカーナ州が出処でしてね。」
トスカーナ州ですって?フィレンツェ?
いえいえ、と頭を振ってから、晴れ晴れと誇らしげな顔で言った。
「モンテレッジォです」p29
モンテレッジォの人たちは何世紀にもわたり本の行商で生計を立ててきたという話に驚きます。本を担ぎ、山の中の村から徒歩でイタリア全土で行商をしていたというのです。行商をして村に戻ってくる人も、旅した町に根を下ろす人もいました。最初に話を聞いたヴェネツィアの書店も、最初の人は路上販売から初めて、路地裏に店を開き、四代目の今に至るというのです。
その話に興味を持った内田さんは、とにかくモンテレッジォに行ってみたい!と思い、彼の地を訪ねたのです。
そして知ったのは、この村の人たちが本の行商をして、全土に本を届けたということ。そして、イタリアの権威ある書店賞〈露店商賞(Premio Bancarella)〉の大元がここにあったということです。
本の行商をしていた人たちは様々なアイデアを生みました。大手の書店では扱わないような本、政府から禁書とされるような本も取り扱いました。更に、海外へと飛び出していった人たちもいます。
そんな壮大な物語が、今では寒村となってしまったモンテレッジォから生まれたのです。
村勢調査によれば、1858年時のモンテレッジォの人口850人のうち71人が「職業は本売り」と記載されている。p200
本を担いで徒歩でというのはとてつもなくハードな仕事だと思えるのですが、特に産業も名産品もないモンテレッジォの人たちにとって、それは当り前のことだったと、話をしてくれた人は口を揃えて言うのです。通常ならよその土地で農作業をするというような仕事もあるけれど、天候不順の年にはそれすらもできない。でも本の行商ならできる。だからやってきたというのです。
思いもよらぬ「本の行商」の歴史に驚き、感動する本でした。
当事者であるモンテレッジォの子孫たちですら知らなかった歴史を調べてくれた著者に感謝しているという話が「あとがき」に書かれていました。そうですよね、これは本として残すべき歴史です。
疫病(COVID-19)は、人々の心身と暮らしを侵した。でも、ロックダウンですべてが閉ざされたとき、「本は大切な友達」とイタリア政府は通達を出し、薬局や食料品店と同様、書店を閉めなかった。(文庫版あとがき より)
イタリアという国がこんな考え方ができるようになったのは、モンテレッジォの人たちの力があってこそなのだと思うのです。
2836冊目(今年174冊目)
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