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『本売る日々』 青山文平 160

本売る日々

青山文平(あおやま ぶんぺい)

文藝春秋

 平助さんは「松月堂」という書店を営んでいます。店売りもしていますけど、力を入れているのは行商です。農家や商家で、勉強のために本をたくさん買ってくれる人がいます。良いお得意様がいれば、その方の注文を聞くだけでなく、好みの本を探してきてお見せすることもあります。

 そして、そういう読書家のお得意様は、たいてい話好きなのです。本の話というのは、それを読んだことのある同士でないとなかなか話が進まないので、本屋と話をしたいと思う方が多いのです。お茶を飲みながら本にまつわる話をしているうちに、思わぬ話になって来て、それじゃ、それに関する本を探しましょうかという話になることもあります。

 

「同じ本屋でも、松月堂が商うのは物之本でしょう」

「松月堂はお手軽な浄瑠璃本や草双子なんぞの流行物を扱う草子屋とはちがう。」

 「物之本」とは、現代のジャンルでいうと人文・社会科学や自然科学などの書物のことです。流行物ではなく、文学であれば古典、学問のための本を扱う平助さんは、いつかは自分の所で本を出版(開板)したいという夢を持っています。

・本売る日々
 小曾根村の名主の惣兵衛さんのところに本を担いでいくと、必ず書斎に通され、様々な話をします。

・鬼に食われた女(ひと)
 お得意様の正平さんが店にやって来て話をするうちに「八尾比丘尼伝説」に興味があるというのです。
 八尾比丘尼(やおびくに)といえば、人魚の肉を食べて八百年も生きたという女の話で、そんな草双子ネタを自分は扱わないよと思う平助さん。

・初めての開板(かいはん)
 弟の娘が診てもらった医者の話を聞いているうちに、その医者がいい医者なのか、悪い医者なのか疑問が湧いてきたのです。姪が再びその医者に診てもらうというので、平助さんはついて行くことにしました。

 

 先日読んだ「貸本屋おせん」は草双子を扱う店、「松月堂」は物之本を扱う店、同じように本を担いで行商していても、まるで違った世界なのですねぇ。とはいえ、江戸時代に本を読んでいる人がかなりいたというのは凄いことですね。

 ちょっとミステリアスなところもあって、なかなか面白い江戸時代の本屋さんの話でした。

2822冊目(今年160冊目)

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