『奇跡のフォント』 高田裕美 180
著者の高田さんは、フォント(書体デザイン)のお仕事をされている方です。どんな人にも読みやすいフォントを作ることを目標にしていらっしゃいます。そして、現在 Windows にも搭載されている「UDデジタル教科書体」を作ってこられた方なのです。
わたし自身、老眼のせいでしょうが、Excelなどの文字が読みずらいなと思っていたのでこのフォントを試してみたところ、実に読みやすいのです。文字サイズを大きくしなくても読みやすいフォントの存在に驚き、感謝しています。そこでこの本を読んでみようと思ったのです。
「うちの教室に、ディスレクシアの小学生の男の子がいるんです。その子は普通の本や教科書では文字がうまく読めなくて、『どうせおれには無理だから』って、いつも途中で読むのを諦めていたんです」
「それで、あるときUDデジタル教科書体のことを知って、試しに教材のフォントを変えてみたんです。そしたら教材を見た瞬間、その子が『これなら読める! おれ、バカじゃなかったんだ!』って。暗かった顔がぱあっと明るくなって、その顔を見たとき、私、思わず涙がこみあげてきてしまって。その場にいたスタッフ皆、今まで男の子が悔しい思いをしてきたのを知っていたから。みんなで男の子の周りに集まって、泣いてしまいました」(「はじめに」より)
文字が読みづらい、読めないと言われたときに、健常者はその人がどんな具合に見えていないのかは想像できません。小さな文字を拡大すれば読めるという人もいれば、それだけでは不十分な人もいます。文字がぼやけてしまっているのか、乱視のように重なった状態になってしまっているのか、明るさが足りないのか、などいろいろな状況があるのです。そういった問題の中で、見えている人が思いもつかないのは心理的なことです。
例えば、明朝体の漢字の「はね」や「はらい」は先端が鋭くとがっていますが、視覚過敏の子は、それが自分に刺さってくるように感じられて、恐怖やストレスを感じることがあるそうです。P126
そんなことがあるなんて、わたしはビックリしました。
ディスレクシアは、学習障害(LD)の一つで、「発達性読み書き障害」とも言われます。視覚や聴覚に異常がなく、チ手金も問題はありませんが、普通に学習しても文字の読み書きに著しい困難さを伴う障害です。実は日本語話者の5~8%、35人のクラスならば2~3人程度はディスレクシアの子がいると言われるほど、身近な存在です。P171
日本のディスレクシア研究は「30年遅れている」と言われています。それは、文字を読みづらいと訴える子供たちの声を受け止めずに、何度も読んだり書いたりすればできるという間違った教育が行われてきた結果なのでしょう。
オーディオブックの会社を作られた上田渉さんの著書「脳が良くなる耳勉強法」の中で、彼自身が目から入れる情報が頭に入らないことが体験的に分かっていたので、耳から音で聞くということで勉強されたという話が書かれてたことを思い出しました。
そして、あとがきに書かれていたのが「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由」の西川幹之佑さんのことでした。西川さんの本を編集した方が「UDデジタル教科書体」に興味を持たれ、この本の出版に至ったのだそうです。
文字を読むことに苦労をしている人がきっと大勢いるのです。このフォントが少しでもその人たちの助けになればいいなと、心から願っています。
Tokyo Midtown presents The Lifestyle MUSEUM_vol.791で高田さんのお話を聞くことができます。
2842冊目(今年180冊目)
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