『死者宅の清掃』 キム・ワン 蓮池薫 訳 215
孤独死の先進国日本の為政者たちは「孤独」という鑑定判断の含まれた語彙である「孤独死」の代わりに、「孤立死」という表現を公式用語として使い始めている。死んだ者が置かれた「孤立」という、社会的状況に、より注目したのだ。しかし、孤独死を孤立死に呼び変えたとして、死者の孤独が少しでもやわらぐわけではない。冷徹に言えば、死者ではなく、それを見る側が少しでも心の苦しさと負担感を減らそうという試みにすぎない。P39
第一章 独りで死んだ人の部屋を掃除する
・家の中にゴミをため込む人間こそ、お金をゴミのように扱う人なのだからP46
独りで死んでしまった人を発見するきっかけは、そのほとんどが「臭い」なのだそうです。異臭がするという苦情から、大家さんや警察が部屋を訪ねて開けてみて発見する場合、亡くなってから数週間以上経っています。
ご遺体は警察が運んでいきますが、それ以外のものはすべて残ります。その処理を「特殊清掃業」の方にお願いすることになるのです。たいていの場合、家の中にはおびただしいゴミが存在します。支払いができなくて水道を止められ、電気を止められるような人であっても、ゴミの山の中にお金が混ざっていることが、よくあるそうです。
一緒に暮らしていてペットの亡骸があることも、よくあることだそうですが、そんなキムさんでもびっくりしたのが、部屋から10匹もの猫の死骸が見つかったときです。部屋の中に檻がたくさんあって、その檻を壊すところから始まった作業はツラかったとおっしゃっています。人間は勝手に死ぬのだからしょうがないけれど、どうして罪もない動物をこんな目にあわせるのかと。
第二章 少しは特別な仕事をしています
2018年に初めて大韓民国「職種別職業辞典」に載った「遺品整理士」という職業も、独立した地位を与えられているわけではない。P109
仕事の少ない冬も心配だが、短期間に注文が殺到する夏も苦難の毎日だ。P191
彼のような仕事をしていると、不思議な問い合わせが来ることがあるのだそうです。田舎にある実家の清掃をして欲しいのだけれど、自分は立ち会えない。近所の人には特殊清掃だとはわからないように仕事をしてくれ。などというのは、ごく普通な話だそうです。
死んだ人の部屋を清掃してもらうのに料金はいくらくらいかかるのですか?という問い合わせに、お部屋の広さや、マンションか戸建てかなどの条件をうかがわないとわかりませんと回答しているのに、はっきりと言わない人がいたり。
練炭自殺は苦しいのですか?と質問してくる人がいたり。
人がやりたがらない仕事だけれど、でも、誰かがやらなければならない仕事、それに対して敬意を払ってくれる人もいれば、お金さえ払えばいいんでしょという態度の人もいます。
お葬式の費用の心配はするけれど、独りで亡くなったら、その後始末が大変なんだよということに気づいていない人が大勢います。病院で亡くなったとしても、家の後始末は本当に大変なんだから、みなさん、真剣に考えてください。この本の中に登場する家のようにならないように。
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