『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』 川内有緒 230
「自分は全盲だけど美術館で絵を見たいんです、お願いします」と電話をかけ続けた白鳥さんもまた、美術館にとっては未確認困惑物体とでもいうべき存在だった。しかし、中には「よし、一緒に見てみよう」と思うひともいて、「わくわくなおもわく」は始まった。いまや「セッション!」だけではなく、視覚障碍者と一緒にアートを見るワークショップはいくつもの美術館で行われ、多くの見えない人とが会話を通じてアートを楽しんでいる。しかし振り返れば、それはひとりの全盲の男性が美術館に電話をかけ、何度も断られながら「そこをなんとかお願いします」と頼み続けたことから始まっている。あの日から25年近くが経過した現在、白鳥さんはもはや「未確認困惑物体」ではなく、大勢の美術館訪問者のひとりにすぎない。P184
最初の頃は「前例がない」と言われて断られることが多かったのですが、ある美術館の方がOKを出してくれて、一緒に美術館を説明しながら歩いてくれたのだそうです。その方が「今まで自分は見ていたつもりだったけれど、見ていなかったことがたくさんあることに気づかされた」というのです。その後、白鳥さんは様々な美術館へアートを見に行くようになっただけでなく、あらゆる人がアートを楽しむことができる一ベントに参加し、時には講師としても活躍しています。
白鳥さんと一緒に美術館へ出かけた人は、まずは見えたことを説明します。大きさ、色、人物が描かれているとか、額縁は金属でできているとか、幼稚園児くらいの大きさとか、いろんなことを言葉で伝えます。同じものを見ていても人によって見え方や感じ方がビックリするほど違っていて、同行した人自体も新しい発見をするのです。
そして、今まで自分がこうだと思っていた絵が、実は違っていたということに気づいた人まで現れたのです。
晴眼者である著者は、見えない人が楽しむ芸術=彫刻などの触れるものだと思っていました。でも、そうではないのです。見えなくたって絵画も動画も鑑賞することができるということに気がついたのです。
そして、かなり白鳥さんと親しくなってから、勇気出して聞いてみた「優生思想について」「もし医学が進歩して目が見えるようになるとしたら、あなたは見えるようになりたいの?」に対して、実に白鳥さんらしい回答をしてくれたのです。
ここで登場した「46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生」は以前に読んだことがあり、「見えるようになった方がいいよね」というのは、晴眼者の勝手な思い込みであるということを、この本で感じていたわたしとしては、白鳥さんの回答になるほどと思いました。
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」で紹介されていたこの本を読んで、実にいろいろなことを考えさせられました。「見えない人は見える人よりも他の感覚が優れている」というのは本当であり、ウソなのです。他の感覚を上手く使える人もいれば、そうでない人もいます。それは晴眼者であっても同じことで、人によって使える感覚は違うとしか言いようがないのです。
「見えていると思っているからこそ盲点がある」ことを、たくさん知ることができた実に面白い本でした。
Tokyo Midtown presents The Lifestyle MUSEUM_vol.709 で白鳥さんの声を聞くことができます。
2892冊目(今年230冊目)
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