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『八日目の蟬』 角田光代 239

八日目の蟬(ようかめのせみ)

角田光代(かくた みつよ)

中公文庫

第二回(2007年度)中央公論文芸賞 受賞

 希和子は、赤ん坊の顔を見るだけというつもりでした。不倫相手の男の家に忍び込んで、そいつの妻が産んだ子を見ていたら、急に泣き出されてしまって、思わず抱きかかえてしまったら、離せなくなってしまって、そのまま逃げてしまったのです。

 1章では、喜和子と薫と名付けた子どもの逃避行が、2章では成長したその子の話が描かれています。

 

 不倫相手との子どもを堕ろして、そのせいで子どもを産めない体になってしまった希和子。数か月もしないうちに奥さんに子どもが生まれて、その子を誘拐したことは確かに悪いことだけど、そんな事態を招いたのは、だらしない男のせいなのに、悪いのは希和子だけってことになってしまうのは、どうにもやりきれない。確かに喜和子は加害者なんだけど、読み進むにつれ、彼女の側に立ってしまう自分に驚いてしまいます。

 希和子たちが逃げ込んだ「エンジェルホーム」にも似たような境遇の女たちが大勢いて、確かに怪しい団体ではあるけれど、誰かから逃げなければならない女たちにとっては大事な場所。役所も、家族もあてにできない人が世の中には大勢いるんだもの。

 

八日目の蟬は、ほかの蟬には見られなかったものを見るんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと思うよ。P329

 地上に出て1週間しか生きられない蝉だけど、もしかしてあと1日生き延びたら、そこには違う世界があるかもしれないって、凄い表現だなぁ。つらいことも、やるせないことも、いろいろあるけれど、きっといいことがあると思えるからこそ、明日も生きていけるんだなぁ。

 ドキドキしながら、一気に読み終わってしまいました。

2901冊目(今年239冊目)

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