『老いの地平線 91歳 自信をもってボケてます』 樋口恵子 223
いつも電話で話していた人は耳が遠くなったから文字で書いてほしいと言い、右手の指3本が使えなくなった人は電話で話してほしいと言い。他にも、いろいろできなくなったけどパソコンのボタンだけは押せるから、パソコンで通信したいという人もいます。
要するに、老いこそ多様なのです。老いというと十把一絡げのように思われるけれど、実はその人が使える残された感覚と能力というのは非常に個性的。いろいろな老い方があるのです。P42
人々の多様化が叫ばれるようになった今でも、老人の多様化にほとんどの人が気づかないのは確かです。わたしの母は90近くなっても耳は普通に聞こえていたのに、ケアマネさんが大声で話をするのが気に入らないと注文を付けたことがありました。確かに耳の遠い老人は多いのでしょうけど、そうではない人にとって大声はストレスだと気がつけなかったのでしょうね。
足腰の筋力が落ちるということは理解されても、握力が落ちて字が書けなくなるというのを理解されないことが多いのです。友人の母親が役所に提出する介護関連の書類で、全文を本人の手書きでという指示があったのです。サインを書くのがやっとの老人にこういうことを強いるのってビックリしたり、怒ったり。でも、こういう事って当事者にならないとわからないのです。
樋口さんは、上野千鶴子さんと仲良くされていて、彼女の話を聞いて「ふむふむ」と思うことが多いのだそうです。
近年は交通事故で無くなるおひとりさまよりも、お風呂で亡くなるおひとりさまのほうが多い。それよりもさらに、自宅の周辺で転倒して亡くなるおひとりさまが多い。(上野千鶴子さん談)P159
(上野)離婚したら、年金はマックスで2分の1。貧乏ばあさんと貧乏じいさんができるだけです。夫を看取れば4分の3もらえますからね。
(樋口)どっちが得かと考えると、待っていた方がいいということになるんでしょうね。
(上野)遺族年金は夫の看取り保証です。P169
こういうことも、知らない人の方が多いですよね。年金が少なかったら生活保護を申請してもいいなんてことも、知りませんでした。
高齢社会の先に待ち受けているのは、年間150万人以上がなくなる「多死社会」。あと15年ほどで、日本は「多死時代」に突入します。
ところが、多死に対応する社会システムはまだできていません。P190
日本人の既婚男性の多くは妻に看取ってもらって死にます。そして女性は85歳になると3分の2が独身に戻ります。
だから、決して弾劾する意味ではないのですが、男性の方が自分の老後に少し無責任になるのも無理はないと思います。
逆に妻が先に倒れた場合、夫も介護をするでしょうけれど、やはり限界があります。男性は家の中に人の手を入れたがらず、全部ひとりで背負おうとしがちですが、頑張りすぎて共倒れに・・・という危険もあります。P194
介護をしていた夫が歳を取って、妻の面倒をみきれないと思っても、誰かに頼るという発想が生まれにくいのです。先日もそんな自分たちの先行きを悲観して妻を殺してしまったという事件がありました。
「高齢社会」「多死社会」、いずれも確実に来るわけですが、役所はちゃんと準備してるのかしら?毎度のごとく後手後手になりそうです。ということは、わたしたちは、そういう社会になることを予想して生きて行かなければならないということですよね。
一生どころか、死んでからも自助努力を求められるのが、日本という国なんだなと改めて納得してしまいました。樋口さんを見習って、歳をとっても過ごしやすい家や暮らしのことを考えなければと思います。
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