『リハビリの夜』 熊谷晋一郎 233
著者の熊谷さんは、脳性まひで電動車いすに乗っている小児科医です。現在は「当事者研究」に力を入れていて、障害や病気を持った本人が周りの人たちの力を借りながら暮らす中で発生する問題について研究されています。
この本の中で多くのページを割いている「リハビリキャンプ」の話がスゴイのです。脳性まひの子どもたちを集めて合宿状態でリハビリを行うとのですが、そこで施術をするトレイナーの人達を冷静な目で観察していた、子ども時代の熊谷さんが考えていたことを文章化しているのですが、これが衝撃的です。
きっと良かれと思ってやっているのでしょうが、トレイナーの動作や心の在り方が「押し付け」であると感じることが多いのです。トレイナーがいくら「リラックスしてね」といっても、その人のいらつきを敏感に感じてしま熊谷さんの体は硬直してしまい、ますますトレイナーの意図するのと逆の方向へ進んでしまうというのです。
ああ、これはわたしにもあるなぁと思い当たるのです。相手の言葉や態度に嫌な感じを持ってしまうと、意味もなく反発したくなるのです。そこから逃げたくなるのです。物理的に逃げることができない状態だったら、黙る、他のことを考える、嘘をつく。そうだよねぇという思いが湧いてきました。
親との関係はなかなか難しい問題です。脳性まひの我が子を大事に思ってくれるのはありがたいけど、このまま歳を取って親が死んだ後はどうするんだ?と考えた熊谷さんは大学入学と同時にひとり暮らしを始めます。もちろん、日常の様々なことを誰かに手伝ってもらうわけですけど、親にやってもらうのとは違う関係が生まれてきたのです。
部屋の中を暮らしやすいように改造したり、電動車いすを導入したりして、ひとりでできることを増やしていきます。
医学部へ入学した熊谷さんは、車椅子の自分がインターンとして病院で働くことに不安を感じていました。でも、なんとかなりました。仕事だってひとりだけでやるわけではありません。いろんな人の力を借りていけばいいのだということを実践の中で学んだのです。
この本を読みながら、自分が子どもだった頃のことをいろいろと思い出しました。親との関係、世間との関係、わたしのコンプレックスの根源はこういうところにあるのか?と感じることをいくつも見つけました。あの頃は、こういうことに文句を言っちゃいけないと思い込まされていたんだなとか、長いものに巻かれていたなとか。わたしの中の闇がいくつか明らかになって来たような気がします。そういう意味でも、この本は凄いなと思います。
熊谷さんのような方に、もっともっと活躍してもらいたいなと心から思います。
2895冊目(今年233冊目)
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