『荒地の家族』 佐藤厚志 236
祐治は造園業のひとり親方、脚立に登って枝を選定したり、樹木の植え替えをしたりしている。それ以外の頼まれ仕事もなるべく断らずにやっている。身体はつらいけれど、働けるときに働いておかなければと思っている。
あの津波が町をさらっていってしまった。祐治の仕事道具を置いていた倉庫も車も流されてしまった。幸い家族は助かったけど、数年後に妻が家を出て行ってしまった。だから今は母親と息子と3人で暮らしている。
小さな町に住んでいると、いつも誰かに見られている。いつも知っている人に出くわす。それは知らないうちに心を蝕んでいく。何かやらかしたら、すぐにみんなに知られてしまう。友達はそれが嫌でよそへ行った。祐治はどこかへ逃げようとはしない、つらい思い出だらけだけど、この土地を離れることができない。
寡黙な男たちは悲しい。つらさや悲しさを誰かにぶちまけることもできず、酒に逃げたり、仕事に逃げたりしてしまう。家族を守るために生きなければと思えるのが、せめてもの救いなのかもしれない。
つらいなぁ、でもこういう現実は確かにある。どうしょうもない悲しさに押しつぶされた友達も、そこから這いあがった友達もいる。わたしにできることなんて、愚痴を聞いて一緒に泣くことくらいしかないけれど、それでも良かったら連絡してねって言ったことが何度もある。
生きていくって、どうしてこんなにもつらいんだろう。それでもさ、生きていくんだよ。
2898冊目(今年236冊目)
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