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『目の見えない人は世界をどう見ているのか』 伊藤亜紗 225

Menomienaihitoha

目の見えない人は世界をどう見ているのか

伊藤亜紗(いとう あさ)

光文社新書

面白いのは、サーチすることと重心の移動が密接にかかわっていることです。身体がサーチモードになるということは、危険を感じたらすぐに重心を変えられるような余裕を、体に作っておくということです。要するに、平衡感覚が鋭くなる。「見えなくなってからかえって転ばなくなった」という声をしばしば耳にしますが、それはこうした体の使い方の変化を反映してのことでしょう。P124

 目で見る、耳で聞く、というように健常者は思い込んでいます。でも、思ってもみなかった部分で見ていたリ、聞いていたり、感じていたリするのです。たとえば、言葉で説明されただけなのにおいしそうなものが想像できたり、風の感じや香りで「きれいな場所ですね」とわかったりするのです。電車内で健常者がヨロヨロしているのに、視覚障碍者だけがスッと立ち続けていたというエピソードが紹介されていましたけれど、見えているはずの人の方が見えていない(見ていない)ということがたくさんあるのです。

 

義足を使っている人なら、義足が自分の体の一部だと感じられなければ、使いこなすことができません。切断して存在しないはずの四肢を、まるであるかのように感じることを「幻肢」と言います。一説によれば、義足を使いこなすには適切な幻肢を持っていることが必要なのだそうです。「自分には足がある」というイメージがないと、義足を異物として感じてしまうのでしょう。中には、毎朝切断部分をピシャピシャたたいて幻肢を「起こす」人さえいることを、神経学者のオリバー・サックスは報告しています。P141

 自分の能力をフル活用する、そのためには幻肢だって活用する。人間の能力って底知れないものがあるのです。

 

従来の考え方では、障害は個人に属していました。ところが、新しい考えでは、障害の原因は社会の側にあるとされた。見えないことが障害なのではなく、見えないから何かができなくなる、そのことが障害だというわけです。障害学の言葉で言えば、「個人レベル」から「社会モデル」の転換が起こったのです。
「足が不自由である」ことが障害なのではなく、「足が不自由だからひとりで旅行に行けない」ことや「足が不自由なために臨んだ職を得られず、経済的に余裕がない」ことが障害なのです。P211

 この考え方を、もっともっと多くの人が持つべきだと思います。障碍者がひとりでは危ないから外へ出るなという時代は終わったのです。だって危ないじゃないというのは、健常者の都合なのであって、どんな障害があろうと、好きなところへ出かけたい、好きなことをしたいという自由は保障されるべきです。

 近くにいる人が、危ないな、不自由だなと感じたら助ければいいのです。乙武洋匡さんが外国旅行をしたときに、段差でどうしようと思っていたら、近くの人が集まって来て、車椅子を持ち上げてくれたのだそうです。お礼を言うと「当り前のことだから」という返事だったそうです。インフラ整備はモチロンですけど、普通の人たちの障害へ対する気持ちの問題の方が、より重要だと思うのです。

 そしてこれは、障害のあるなしに関わらず、すべての人に当てはまるはずです。女性だからこういう職業に就けないとか、年寄りだからこんなことはできないとか、それは社会が押し付けた価値観でしかないのです。それができないのは、みんなの心の中にある意識のせいなのだと気づけばいいのです。

 

 この本の中で紹介されていた本も読んでみたくなりました。

・「リハビリの夜」熊谷晋一郎
・「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内有緒

2887冊目(今年225冊目)

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