『魔女だったかもしれないわたし』 エル・マクニコル 241
魔女だったかもしれないわたし
A kind of spark
エル・マクニコル
Elle McNicoll
櫛田理絵(くしだ りえ) 訳
わたしたちの本棚
PHP研究所
第69回(2023年)青少年読書感想文全国コンクール 課題図書 小学校高学年の部
スコットランド
アディは自閉的な行動をするたびに、理解のないマーフィー先生に怒られ続けています。今日も一生懸命に書いてきた物語を、字が汚いといってみんなの前で破かれてしまいました。そんなときに助けてくれるのは、図書館のアリソン先生です。アディの個性を理解してくれているので、とても心が休まるのです。とはいっても、世の中のほとんどの人はアディのことをわかってくれません。
ある日の授業で、昔、魔女裁判というのがあって、多くの「変わった女性」が魔女として殺されていたということをアディは知って愕然とします。もしその時代に自分がいたら、きっと魔女にされていたに違いないと確信してしまったのです。
魔女裁判の話を聞いて共感を感じているアディを見て、あれはおかしいという人がほとんどだった場面では、「どっちがおかしい人なんだよ!」と言い返したい気持ちになりました。
「大人もいじめることがあるなんて、知らなかったから」わたしがそういうと、みんなだまった。
聞こえるもの、感じるものすべてに敏感すぎて、気を失うことすらある。それがどんなに大変なことか、ふだん考えてくれているだろうか?マーフィ先生にとって大事なのは、字の見た目であって、書かれている中身じゃない。わたし流の、ちがう解き方に目くじらを立てるけど、その時出した答えがあっていることは気にも留めない。
ちがう解き方、ちがう存在、それが先生の癇に障るのだ。ほかの子とはちがう、わたしという存在が。そうした見方に、私は振り回されてしまった。P224
アディはクラスメートからいじめられたり、無視されたりすることがよくありました。でも、それは子どもだからだと思っていたのです。でも、そういう人が大人にもいるのだと、自分の担任のマーフィー先生がそういう人なのだと、わかったのです。
でも、裏を返してみるとマーフィー先生だって何らかの問題、コンプレックスを抱えているのじゃないかしら。アディが質問するたびに面倒くさそうにするのも、うるさいと怒るのも、きちんと答えられない自分を胡麻化したいからなのじゃないかしら。
他の人にとっては気にならない光も、音も、敏感な人にとっては耐えられないものである可能性があるということを、わたしたちは余りにも考えなさすぎなんじゃないかしら。
人が大勢いるところへ行きたくないとか、疑問が湧いたらとことん質問してしまうとか、明るすぎるのが嫌だとか、そういうことは決して悪いことではないはずなのに、「あの人ってヘンよね」って扱いを受けてしまうのは、とても悲しいことなんだなって、この本を読んでいて何度も感じました。
わたし自身、アディほどの反応は出ないけれど、音に関しては人よりは敏感で困ることが時々あるのです。風鈴や鈴虫のような高音は遠くで聞く分にはいいのですが、近くで聞き続けていると頭がおかしくなりそうになります。
人それぞれに、そういうストレスがあって、でも他人からはわかってもらえないことというのが、たくさんあるはずです。ハッキリはわからなくても、みんな違うのだということを理解し、それぞれを尊重することが大事なんだなぁと痛切に思います。
いわゆる健常者がウソをつくことによってアディのような「少し変わった人」が悪者にされていくことがあって、それがエスカレートすると魔女裁判のようなことになっていくのかと思うと、とても怖いなと思いました。
子どもだけでなく、多くの大人にも読んでもらい本です。そして、それによって理解が広がることを望んでいます。
2903冊目(今年241冊目)
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