『失われた地図』 恩田陸 252
正体不明の化け物が町の「裂け目」から、わらわらと現れてくる。そいつらを封じ込めるために鮎観(あゆみ)の一族は戦い続けてきました。
彼らを「グンカ」と呼ぶのは物語の中では説明されていないけれど、わたしは「軍靴」ではないかと感じたのです。あのザッザッザという音が聞こえてくるような気がしたのです。
物語の最初のシーンは錦糸町、置いてけ堀の伝説が残るあの公園でバトルが始まります。その後は川崎、上野、大阪、呉、六本木と移動してグンカたちを封じ込めるために裂け目を縫っていくのですが、その針が簪(かんざし)なのだけど、いったい何針縫ったら閉じられるんだろう?と不思議でたまらないのです。
『グンカ』の奴らは、戦争したい、戦争起きればいいのにって思う連中が増えるとその気配を察して、『裂け目』やぶってわらわら湧いてくんのよ。人間てのは、じりじりコツコツ暮らすのが嫌な連中がいつも一定数いるわけ。何か起きないか、一発逆転できないか、これまでの世界がチャラにならないかってきょろきょろしてる連中ね。そういうヤツって、しばらくおとなしくしてると飽きてきちゃって、ジワジワ数が増えてくんのよね。P125
このセリフを読んでいて、そうか、楽して稼ぎたいからって闇バイトに応募する奴が後を絶たないのも、よその国に言いがかりをつけて戦争したがる奴がいるのも、そのせいなんだなって思ったんです。こういう邪悪さって必ず存在するものだもの。そういう悪いものが裂け目からあふれ出てくるって、ちょっと帝都物語っぽっぽい感じもあって好きだなぁ。
あたしは冷めた気分でしげしげと元夫をチェックした。あの髪型といい、もっと年取ったら、おばあさんになるタイプだわね。
あたしが思うに、人間、歳をとると「おじいさん」になるタイプと「おばあさん」になるタイプがいる。元の性別とは関係なく、どちらかに変化するのだ。こいつは「おばあさん」だ。間違いない。たぶんミヤコ蝶々みたいな。P221
ストーリーとは全然関係ないのだけれど、このフレーズがとっても好き。歳とっておばあさんになる男も、年取っておじいさんになる女も確かにいる。得体のしれない化け物と戦っている人が、こんなことを考えているのが妙に面白い。でも、ミヤコ蝶々って、今時の若者にはわからないよねぇ(笑)
第一話 錦糸町コマンド
第二話 川崎コンフィデンシャル
第三話 上野ブラッディ
第四話 大阪アンタッチャブル
第五話 呉スクランブル
第六話 六本木クライシス
2914冊目(今年252冊目)
« 『おもかげ復元師』 笹原留似子 251 | トップページ | 『ほんやのいぬくん』 ルイーズ・イエーツ 253 »
「日本の作家 あ行」カテゴリの記事
- 『訂正する力』 東浩紀 326(2023.11.23)
- 『人間椅子』 江戸川乱歩 321(2023.11.18)
- 『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』 岡崎武志 324(2023.11.21)
- 『わたしの1ケ月1000円ごほうび』 おづまりこ 307(2023.11.04)
コメント