『レミは生きている』 平野威馬雄 264
フランス文学者の平野威馬雄さんは、あの平野レミさんのお父様です。威馬雄さんはアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた混血児です。1900年(明治33年)に生まれた彼は、混血児というだけでずっといじめられ、差別されて育ちました。戦時中はスパイの疑いを掛けられ警察からひどい調べを受けたこともありました。
鼻が高い自分の顔が嫌いで、人に横顔を見せないように下を向いて歩いていたとか、何をやっても目立ってしまう自分のことを先生たちから仇のように扱われたという、威馬雄さんの少年時代の話は、読んでいてつらくて、ページをめくるのが止まることが度々ありました。
級友たちからいつもいじめられていた威馬雄さんは、ケンカで相手の片目をつぶしてしまったことがあり、それをずっと気に病んでいました。大人になってから偶然に再会したその人に「片目になったおかげで、戦争に行かないで済んだし、弱者の気持ちがわかるようになった。だから君に感謝している」と言われてとても嬉しかったそうです。
「この、むじゃきな子どもたちは、日本で生まれ、日本で育ち、日本の国しか知らないのです。ひふの色や目の色や毛色がかわっていても、その血の中には、日本人のたましいが、やどっているんです。さぁ、みなさん、この、身よりのない兄弟を、みんなで、やさしくいつくしんでやろうじゃありませんか。」と、ぼくは、いま、この本を読んでくださる日本の少年少女に、よびかけたい。
中略
「アメリカのエースたちが、多く黒人選手である・・・のと、同じように、日本のエースたちの中にも、すぐれた「混血の子」の名がきっと・・・。ああ、そんな日のために、ぼくは、かれらの天分に応じた教育を考えてやろうと思う。」
威馬雄さんは、自分が混血児であるために受けてきた意味のない中傷や差別にいつも怒りを感じていました。それでも、自分は父が誰かを知っているし、裕福な家に生まれただけ幸運だったのです。第二次世界大戦後、多くの混血児が生まれました。彼らが父親の顔を見たこともなく、貧しい生活をしているのを見て、彼らを助けるために尽力されたのです。家に子どもたちを呼んでご飯を食べさせたり、何人かは自分の子どもとして育てました。
そんな生活を振り返って、平野レミさんは「毎日おかあさんとご飯をたくさん作っていたのよ、だから料理が上手くなったの。」と言っています。レミさんはお父さんの生き方を素直に受け止めていたのですね。
威馬雄さんが亡くなった時に、子どもの頃に横浜で育ったこともあり、お骨を横浜の外人墓地へ埋葬したいと思ったのですが、日本国籍だとここへは埋葬できないと言われました。こういう時だけは日本人扱いするのは何という皮肉なのでしょうか。親戚の人が埋葬されているなどの話をしてやっと、ここにお墓を作ることができたのです。
この本は1959年に書かれました。そのころと比べればマシになったとはいえ、今でも日本には混血児や外国から来た人達に対しての差別があります。昔ほど露骨ではないにせよ、そういう考え方を持っている人がまだまだ大勢います。労働力としてなら構わないけれど永住されては困るというのは、ホントに勝手な理屈です。日本人になりたい、日本で暮らしたいという人がいてくれるのは、日本にとっても大事なことのはずです。
威馬雄さんのような意味のない苦労をする人がひとりでも減るように努力するのが、わたしたちの使命なのだと思うのです。
表紙の可愛い少年の絵は平野レミさんの夫、和田誠さんの作です。
2926冊目(今年264冊目)
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