『百鬼園事件帖』 三上延 292
甘木くんは大学生です。自分でいうのも何ですが、影の薄い人間なのです。友人に名前を憶えてもらえないことが多くて、甘木という名字が「某(なにがし)」と読まれてしまうような気すらしているのです。
ある日、神楽坂の「喫茶 千鳥」で食事をしていたら、大学のドイツ語の教師で怖いと有名な内田榮造(百閒)先生と目が合ってしまったのです。その時に先生が「甘木くん」と自分の名を覚えていてくれたことが嬉しくて、先生と会話を交わし、親しくなることができました。
でも、内田先生と一緒にいると、どうも不思議なことばかり起きるのです。何か、この世のものではない何かの気配がすることもあるのです。
ドッペルゲンガーは一人ではない。他の者が人間と接していれば、新たなドッペルゲンガーが生まれてしまう。
内田先生が説明してくれるドッペルゲンガーの話は興味深いのですが、自分のドッペルゲンガーと目が合うと死んでしまうのだと言われて、甘木くんは生きた心地がしないのです。
この4篇が収められています。
第一話 背広
第二話 猫
第三話 竹杖
第四話 春の日
芥川龍之介が書いたという「百間先生邂逅百間先生図」に描かれている蚊取り線香のようなグルグルした線のことが、話の中に何度も出てくるのですが、これがなかなかに怖いのですよ。夢に出てきたら嫌だなぁ。
百閒先生の本も読みたくなってきました。
この本の表紙で市電に乗っているあの方たちも登場しますので、そちらに興味がある方も是非!
ストーリーとは関係ありませんが、甘木くんと内田先生が水道橋の駅から電車に乗るシーンで「小豆色の電車」と言っていたのが気になりました。この物語は関東大震災から8年ということですから昭和6年です。わたしの記憶の最初の方にある総武・中央各駅停車の列車の色も同じだったことを思い出しました。
調べてみたところ、昭和39年に総武線が山手線のお下がりの黄色い車両になるまでは、戦前と同じ小豆色だったのでした。
2954冊目(今年292冊目)
« 『おさがしの本は』 門井慶喜 291 | トップページ | 『カタリン・カリコの物語』 デビー・ダディ ジュリアナ・オークリー 293 »
「日本の作家 ま行」カテゴリの記事
- 『ヒトミさんの恋』 益田ミリ 24-159(2024.06.03)
- 『じゅげむの夏』 最上一平 24-137(2024.05.12)
- 『成瀬は信じた道をいく』 宮島未奈 24-143(2024.05.18)
« 『おさがしの本は』 門井慶喜 291 | トップページ | 『カタリン・カリコの物語』 デビー・ダディ ジュリアナ・オークリー 293 »
コメント