『書店員X「常識」に殺されない生き方』 長江貴士 277
2016年、地方の一書店が仕掛けた「文庫X」なる謎の本が、日本中を席巻した。表紙をオリジナルの手書きカバーで覆い、タイトルと著者名を隠すという前代未聞の試みは、全国650以上の書店を巻き込み、30万部を超えるヒットを記録。マスコミにも大きく取り上げられた。(書籍紹介より)
この文庫Xの仕掛け人が長江さんです。きっかけは、この本を読んでとても感動したことです。何とかしてこの本を多くの人に届けたいと考えた結果、表紙を見えないようにして謎の本「文庫X」として売ってみようということだったのです。タイトルなどの情報から自分には関係のない本だと判断されないために、その情報を全部隠してしまったら、どうなるだろう?と考えたのです。
ビックリするのは、この企画を彼が務めている「さわや書店」や出版社と相談なしに始めたということなのです。さわや書店の店長である田口さんは、もともと報告などは不必要、自由にやってくれて構わないよという人なので問題なしでした。この企画を知って一番ビビったのは出版社の方だったようです。面白い企画だけれど、念のためにと作者に相談したところ、どんな形であれ本が多くの人に読まれるということこそが重要なのだとOKを頂きました。最初は60冊でスタートし、4か月半で5034冊(さわや書店フェザン店のみ)という大ヒットになり、この波は全国へと広がっていったのです。
こんな素晴らしいプロジェクトを成功させた長江さんですけど、この本の後半は彼自身のコンプレックスとの闘いを書いてらっしゃいます。それは、世間の人たちが言う「普通」とか「常識」というものに合わせることができない自分が、どうやって働き、どうやって生活をしていけばいいのかということです。
就職活動など無理だと判断した彼は大学を中退し、半年ほど引きこもってしまいました。その後、川崎の書店で10年バイトをして生計を立てるようになります。そこでの彼の働きに気づいてくれたのがさわや書店の田口さんでした。
「大丈夫。別に何も求めてない。けど、長江くんがこれから書店員としてやっていくんだとしたら、楽しく実力を発揮できる場はさわや書店しかない」
最初は断ろうと思ったけれど、この田口さんの言葉に何かを感じてさわや書店で働くとになり、今日も働き続けています。
長江さんのすばらしさは、自分が得意なことと、そうでないことの区別がきちんとできているところです。文庫Xで使用したカバーも、文章は自分で考えましたが、実際の文字は文字を書くのが上手な別の書店員さんに頼んで書いてもらっています。本の並べ方も、POPの置き方も自分で考えました。自由に仕事ができる環境にいたからこそ、長江さんの才能は発揮されたのです。
彼のように才能がありながら、世の中の常識に押しつぶされてしまっている人は、さぞかし大勢いるのでしょう。同じように悩んでいる方も大勢いるのでしょう。そういう人たちに希望を与える本だと感じました。
最後に収められている長江さんと「文庫X」の作者である清水潔さんとの対談は、お互いをリスペクトし合っていて、とても清々しい雰囲気が溢れています。
「文庫X」こと「殺人犯はそこにいる」をぜひ読んでみたくなりました。
そして、おふたりが薦めてらっしゃる本の中から、読んでみたい本がまたまた増えてしまいました。
・高熱隧道 吉村昭(清水)
・非属の才能 山田玲司(長江)
・スコーレNo.4(長江)
・窮鼠はチーズの夢を見る、俎上の鯉は二度跳ねる 水城せとな(長江)
・僕たちは島で、未来を見ることにした 株式会社 巡の環(長江)
この本は「まちの本屋」で紹介されていた本です。さわや書店へ行ってみたくなりました。
2939冊目(今年277冊目)
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