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『どこにでもあるどこかになる前に。〜富山見聞逡巡記〜』 藤井聡子 311

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どこにでもあるどこかになる前に。

〜富山見聞逡巡記〜

藤井聡子(ふじい さとこ)

里山社

これはわたしの物語 で紹介されていた本

 藤井さんは、とにかく東京へ行って何者かになるんだって思って、がむしゃらに働いていました。でも、これだ!というものに出会えなくて、富山へ戻って来て母親が経営する薬局の店長をしながらフリーライターをしていました。

母はもどかしくて仕方なかったのだろうと思う。
「三十五歳で私は背水の陣を敷いた。五十歳で介護施設を作って、ようやく社会に貢献できたと思えた。あんたは私の何を見てきたんけ?くだらなくてもいいから、自分でやってみられ。世の中に対して自分がどうありたいのか、いっぺんやってみたらわかる」

私はとにかくカッコつけずに、全力で恥をかくことにした。こうして富山に帰郷して六年目を迎えた2013年の春、私は自費出版のミニコミ『文藝逡巡 別冊 郷土愛バカ一代、ホタルイカ情念編』の制作に取り掛かった。P119

 地元の紹介をする文章を書いていると、いろんなことを教えてくれる人も現れるし、様々な活動をしている人がいるということもわかって来て、富山にだって面白いことがいろいろあるということに気がついていく藤井さん。

 そんな彼女に最も大きな影響を与えたのがブルース・シンガーのW・C・カラスさんでした。

地元で音楽なんてもんをやってると、お前いい歳して何やってんだって言われますよ。でも俺からしたら、何でサラリーマンやってるやつは自分を疑わないんだって思いますよ。何も疑問を抱かねえのかって。俺は常に自分を疑ってるし、社会を疑ってますよ。疑わないやつにブルースは歌えない。P153

 地元で暮らして、ずっと文句を言い続けていても、このままでいいと思っていても、結局は何も変わらない。なぜなら、自分に疑問を持っていないからだということに気づいた藤井さんは、富山での暮らしがそれなりに面白いし、もっと面白くする方向へ自分から動きださなければならないということに気づいたんです。

 富山には、個性的な店や建物がたくさんあったのに、再開発という言い訳でどんどん壊され、新しいビルが建てられていきました。ビルは新しくなっても富山らしさをなくさないというはずだったのに、そこに入る店はみな、都会から来たチェーン店ばかりなのです。

 そりゃオンボロな建物ばっかりだったかもしれないけど、長年親しんできたあの町並みを壊して、都会のコピーみたいな町にされてしまったと思うと悔しくて仕方ない。 自分たちの居場所はここにあるはずなんだから。自分たちの居場所を作ることができるのは、自分たちだけなのだと、今日も駆け回る藤井さんです。

 これはわたしの物語で紹介されていたこの本、東京一極集中が進む今だからこそ、読むべき本だと思いました。

 わたしは東京の下町でずっと暮らしてきたけど、再開発という訳の分からない利権ビジネスのせいで我が故郷がドンドン壊されていく嫌な感じは一緒です。いつの日か、日本中がみんな同じようなところになってしまうという危機を感じています。

2973冊目(今年311冊目)

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